第3話











 ユウヒはシオリの対面のソファに腰かけ、シオリの出したコーヒーに目をとしていた。

 シオリはゆったりとした動作でユウヒの対面のソファに腰掛けると自分でれたコーヒーを一口飲んだ。


「アカネのことをとがめるつもりは毛頭ないよ。アカネは市民のために勇敢に戦ってカテゴリー3を食い止めた…。それだけでもほこりに思う」


「…私がもっと早くいていれば」


「結果論に過ぎない。君はあの時だいぶ離れた位置からアカネの応援に誰よりも早くけ付けてくれた。それだけでアカネの戦いもむくわれるよ」


 シオリはコーヒーカップを受け皿の上に置くと「さて、湿気た話はこの辺にしておこうか」と話を区切り、何を考えているのか読めない目でユウヒのことを見た。


「まずはアカデミー卒業おめでとう。れて君はスレイヤーズの一員となって活躍することになる。超獣の脅威からこの東京シティの人々を守る、勇気のいる仕事だ」


 そこで話を区切り、シオリはユウヒの目を見てからまた口を開く。


「今正規軍主導で領地拡張計画が進んでいるのは知っているかしら?」


「…西部に外縁壁を三十キロばす計画ですか」


「そうそう。元東京都全域に防壁を伸ばす計画だよ」


「あれは西部じゃなくて南部にばすべきだと思うんですが。北部と西部の先にはカテゴリー5が彷徨くエリアがありますよね」


 東京シティが位置する場所は比較的安全なエリアとなっている。東京湾に面した位置にある東京シティは比較的温暖な方でごしやすい気候となっており、東京シティの周辺には凶悪な超獣も出にくい。


 しかし東京シティから北西百キロ程度はなれた場所には危険な超獣が闊歩かっぽしているエリアが存在している。

 ユウヒはそのエリアの存在をアカデミーで習っており、正直なところ正規軍のやり方には反対の立ち位置であった。


 正規軍はスレイヤーズとは別のシティを防衛する軍隊のことをす。

 彼らの役割はシティに接近してきた大型の超獣の排除および、人間同士の戦争にあった。

 このご時世でも人間とはおろかなもので、領土と資源をもとめて戦争をしたがっているのである。特に大阪シティなどは東京シティを目のかたきにしていて、いつ戦争をけてくるかわかったものではなかった。


「けれど正規軍はこちらの意見など聞かないからね。外縁壁建設の護衛任務程度しか寄越よこしてこない。つまり何が言いたいかと言うと、君の最初の任務はこの護衛任務になると思う」


 シオリはそう話した。

 ユウヒは怪訝な顔を浮かべた。


「カテゴリー2以下しか出てこない任務が不満かしら?」


「いいえ。ただ疑問な点がひとつ」


「言ってごらん」


「正規軍がスレイヤーズに護衛任務を寄越してくるのは不自然では?」


 ユウヒの疑問はもっともで、スレイヤーズと正規軍は犬猿の仲である。とてつもなく仲が悪いのだ。

 シオリはコーヒーを一口飲んで、「そうだね」と何処どこかミステリアスな印象を受ける笑みを浮かべながら話を続けた。


「正規軍が堂々と護衛任務をげて来たわけではないよ。スレイヤーズには建前として廃墟区画の偵察任務の増員を要求してきた。護衛と言うよりは普段からやってる壁の周辺の警邏けいら活動に人を増員しろ、ということ。勿論、彼らの本音は私達に超獣を押し付けたいだけだろうけどね」


「なるほど。賢い」


「フフ、今の話に賢いって言うのは君くらいだよ」


「労力は他者に押し付けてなんぼです」


「押し付けられてるがわだけど、気にしないのかな?」


「どうでもいいですよ。それに比較的安全な廃墟区画の警邏任務なら別に文句はありません」


 ユウヒの言葉にシオリは満足そうに頷いた。


「君みたいなスレイヤーが多ければいいんだけどね。大体の人は名誉と名声のために先走る。手柄を上げようとしてね」


「ランク制度とかいうのなくせばいいと思いますよ」


「それは私の一存では決められないからね。さて、私としてはユウヒさん、貴方に期待している。ランク1000位台だし、装備の補助金が出る。この本部の地下の購買部に武器屋があるから、そこでお気にした獲物を見繕ってくるといい。マサダくんが迎えに行くからまた彼から説明を受けてね」


 シオリはそう言って立ち上がり、ユウヒも釣られて立ち上がると同時に扉がノックされ、マサダが一礼して入室してくる。


「なにか質問は?」


「じゃあ一つ。私って単独で動いていいんですか?」


「スレイヤーズは基本的にはチームでの行動しかみとめていないよ。一人で動きたいならナンバーズ上位の実力がいる。君には私が見繕みつくろったチームに一時的に加入してもらうよ」


「わかりました」


「君なら単独行動の許可が出るのは時間の問題だとは思うけど、無茶はしないようにね」


「そのつもりです」


 ユウヒはシオリの執務室を後にするとマサダに案内されスレイヤーズ本部の地下へと向かう。


 スレイヤーズ本部には本部と言うだけあって色々な設備がそろっている。

 別にその設備の大半はユウヒにとって用がないものではあるが、スレイヤーズ本部というのはこのせまい箱庭の中ではトップクラスに贅沢な施設であった。


 エレベーターにって地下1階ににやってくれば、そこはデパートのような密集した商業区画であるということがひと目でわかった。

 当然だが、人々が行き交う通路の左右には一般的なデパートのような商品は一切並んでいない。武器や防具やサバイバルアイテムがメーカーごとに並んでおり、一種の軍事展示会だと勘違いしてしまいそうになる。


「ここにはユウヒ様もアカデミーの見学会で一度来ているとは思います」


「来てますね」


 エレベーターをりながらマサダに詳しい話を聞いていく。


「ここには三大企業の他にも様々な企業が揃っています。とは言っても一番人気はやはり三大企業ですね」


 マサダの言う三大企業とはスレイヤーズの武装の市場のほとんどをめる三つの企業のことである。


「東京シティで一番人気な対超獣武装ASWは射撃武器ですね。なのでプリズム・アームズが比較的人気です」


 対超獣武装ASWは超獣に対抗する為に作られた武装のことである。その殆どが超獣の外皮や骨格、超獣から取れる資源や”超獣から生える武器そのもの”から作られることが大半で、討伐された超獣の素材はこうした企業の間で取り合いになることが多い。


「それはどこいってもそうだと思いますよ」


「言い得て妙ですね。ユウヒ様の得意な得物はありますか?」


「剣ですかね。片手で持てるやつ」


「ならシュヴァリエ・シュペーか東堂重工のブースに行きましょう」


 ユウヒはマサダの案内で三大企業の一つシュヴァリエ・シュペーの展示場所に向かった。

 展示場所の広さはスレイヤーズへの出資額によって決まっている。シュヴァリエ・シュペーの展示場所の広さはテニスコート二つ分ほどの広さで、相当な額をスレイヤーズに支援していることが伺えた。


 マサダの案内によってシュヴァリエ・シュペーのブースにやってくれば、スーツを着た男性と女性がその入り口でユウヒの事を出迎でむかえた。


「ユウヒ様ですね? お噂はかねがね聞いております」


「まあ顔と名前は知られてますよね」


「それはとても。アカデミー在籍中にカテゴリー3超獣を倒す人など、全世界を見ても貴方様だけでしょう。ささ、どうぞ我が社の商品をご覧になってください」


「では私はここで待っているのでごゆっくり」


 マサダは入口で待機し、ユウヒは店員に連れられて店内を案内される。

 店員から話を聞けばユウヒがここにやって来ているということは既に知られているようで、シュヴァリエ・シュペーはユウヒがアカデミーで近接武器を好んで使っていたことも把握していたためかまえていたようだ。


「ユウヒ様は片手剣ブレードを好んで扱うようでしたので、我が社の商品をいくつかピックアップしておきました」


 店員はそう言うと、いくつかのケースが並んだ場所へと案内し、ケースを女性店員に開けさせる。

 そこには多種多様な刃渡り80cm程度の機械的な加工がほのこされた剣がならんでいる。


「こちらは全て最新モデルです。こちらは新型のエネルギーリアクターを搭載した浸透切断機能を搭載したブレードで、戦車の複合装甲を切断するほどの切断能力を持っています。どうぞ手に持ってみてください」


 ユウヒは店員が紹介したブレードを手に持ってみる。

 柄部分に取り付けられている引き金を引いている間、刀身が高周波で振動しているらしく、並大抵のものならバターのように切断できてしまうらしい。


 だいぶ高級な代物のようで店員が自信満々にこのブレードを紹介しているが、ユウヒにはどこら辺が凄いのかよくわからなかった。


 ユウヒにとって武器なんてものは正直なんでもいい。

 刃渡り15cmのナイフだってやりようによっては超獣を殺せてしまうし、なんなら拳だけでも勝てる。だからユウヒはあまり武器に対してこだわりというものはないのである。


「ゆーちゃん決まったのだ?」


 ユウヒのかたわらからひょっこり頭を出したのはいつの間に背後に来ていたのか、ユキであった。その隣には目の下に大きなクマがあるボサボサの黒髪の白衣の少女が立っていた。

 店員が怪訝けげんな顔をかべるのを他所よそにユウヒはユキの頭を撫でた。


「姉さん。いつの間に」


「さっき来たのだ」


「姉さん、そちらの方は?」


「マオちゃんなのだ。知り合いなのだ」


「…どうも」


 マオと呼ばれた黒髪の、酷いクマの少女は小さな声でユウヒに挨拶してきた。マオはなにやらユキを変な目で見ている。


「ゆーちゃんの武器が決まってなかったらマオちゃんに手伝ってもらおうって思ったけど、大丈夫そうなのだ?」


 ユキはデスクの上に並んでいる武器を見てそう話す。

 ユウヒは手にっていたブレードをケースの中に戻すとユキの方に視線を戻した。


「姉さんの提案ならけましょうかね。その人は武器職人かなにかなんですか?」


「えっ、ユウヒ様、本当によろしいのですか?」


「なにが?」


 店員がユウヒが自社の製品を購入しない雰囲気をさらけ出してきたことによりあせはじめる。

 店員としてはシュヴァリエ・シュペーの商品をユウヒに買わせておきたかった。何せそれだけで宣伝効果をつかめるし、東京シティで近接武器の人気度が上がる可能性があったからだ。


「民間企業のASWは質そのものが落ちます。ならば我が社の製品を購入していただいた方が、確実性は……」


「それならしっくり来なかったのでいいです」


「……」


 ユウヒのキッパリとした物言いに店員はあんぐりと口を開けて、ユウヒがユキとマオと共にっていく後ろ姿を見送ることしかできなかった。







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