第76話 勝負の行方
山手男子高からの帰り道、高崎明翔が自転車を押し、俺、佐藤颯太、柳龍二、一条優が歩く。何時間も写真撮ってたもんだから、すっかり真っ暗だ。
「短髪だと本当に一条と見分けつかないねっ、明翔」
「墨汁でも黒く染まっちゃってたりするんかな」
「あり得ないだろう。髪を染めるにはまずキューティクルを開かないといけない。お風呂に入れば落ちるよ」
「ボクが前に作ったウィッグをかぶればいいんじゃないか」
「あ! そうだな。あのウィッグの世話になるとは思ってなかった」
「20万円分活用してくれ」
驚くことに、颯太が何事もなかったかのようにかわい子ぶっている。みんなちょっと笑っちゃいながらも、そこには触れない。
優しいな、お前ら。
「急げ急げ! 花火大会が始まっちゃうよ!」
などと叫び声が聞こえたと思ったら、暴走自転車と化した小学生が5人くらい、えらい勢いで角を曲がって来た。
「危ない!」
颯太が一条を塀に押し付け、曲がり切れずに一条へ突っ込もうとした自転車との接触を免れた。
とっさだったから、体ごと一条にぶつかった颯太が一条の胸の辺りに顔を押し当てている。
ふう、と息をつく颯太と一条の目が合った。
「あ……あれ……男に真正面に立たれているのにまるで恐怖を感じない。それどころか、思わず頭をなでたくなる」
「あ……あれ……女の胸に顔をうずめているのに、全然息苦しくない。余裕で息ができる」
呆然と見つめ合っていたふたりが、ハッと我に返った。
「あ、ご、ごめん一条! 大丈夫?!」
「あ、こ、こちらこそ! ありがとう、ショタ!」
赤くなって慌てて離れる颯太と一条に、外野としてはニヤニヤが止まらない。
「いい感じなんじゃないっすかー、おふたりさん~」
「颯太が生涯愛するたったひとりの女が優だったんじゃないっすか~」
明翔とふたりヒューヒュー、とはやし立てる。
隠れヤンキーとこじらせ腐女子、世にも奇妙なカップル誕生か?!
ドーン! と地響きがした。
「お! 祝福の花火が――」
高層マンションの右側からわずかに見えた。
……微妙すぎるわ……。
「ま……まあ、これで、あのくっだらない賭けもナシだな。めでたしめでたし!」
俺は両手を広げて解放のポーズだ。
「あ、深月とキスした方が勝ちってヤツ?」
「お前たちが勝手に始めたヤツな」
「イヤだ! ボクは勝負を途中で降りるような中途半端なマネはしない!」
うーん……一条は男になって男とBLするために男として転校して来たくらい徹底してるからなあ……。
しょうがない。このクッソくだらない賭けを終わらせるためだ。
俺は、先に俺とキスした方のモノ……。
自転車を押しているから身動きの取りづらい明翔の頭を軽く手で押さえて、唇を合わせる。
「こ……これで、勝負はついた」
「おー! 明翔の勝ちだ!」
颯太が拍手しているが、恥ずい! いくら暗くっても、なんで友達の前でこんなことしなきゃならんのだ!
「深月……俺を勝たせたかったってことだよね? じゃあ、じゃあ、俺に言わなきゃいけないことがあるでしょ?!」
「え?!」
明翔が自転車から手を離して俺の腕にしがみついてくる。自転車が当然、ガシャーンと倒れた。
「ねえ、言ってよ、深月!」
「ばっ……言わなくても分かるだーが!」
「なんで言ってくんないのー。俺、何回も言ってるのにー」
「いや、あの……せめてふたりきりの時にしてくれる?!」
「俺は人前でも言ってるのに、深月はイヤなんだ」
「いや、すねんなよ、明翔」
明翔に詰め寄られてタジタジの俺を一条が腕組みして見ている。
「イチャついてるとこ申し訳ないけど、今のは呂久村が明翔の唇を奪ったから無効だよ。ね? 学級委員長」
「は?!」
一条の横で柳が手帳をめくる。
「たしかに、呂久村深月の唇を奪った方の勝ち、と書いてあるね」
無効?!
みんなの前でなんて恥ずかしいけどみんなの前じゃなきゃ意味ないから、超がんばったのに?!
「じゃーね! また明日遊ぼうね、呂久村!」
「やっぱり遊んでるだけじゃねーか! 悪趣味な遊びはやめろ!」
「ひどい言われようだなあ。ボク、明翔を好きになった呂久村なら好きだよ」
「え?」
「じゃー、みんな、また明日ー!」
一条が元気いっぱいに笑顔で手を振った。
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