第65話 佐藤颯太の違和感

「ぜんっぜん楽勝の余裕の優勝だったじゃねーかよ! はん! 俺らがあんな地味ーずに負けるわけなかったんだよ! クソが!」

「もー、深月、声デカいから」


 圧倒的得票数で、ビジュアル部門パフォーマンス部門総合優勝、全部かっさらってやった。

 舞台裏に戻った時の地味ーずは、俺たちのステージを見ていないからまだいけると信じていたようでメイクを落とすこともなく女装姿のままだった。


 だが今は、そそくさと5人そろってリュックを背負い出入り口へと向かっている。俺のデカい声が聞こえてないはずないのに、振り返ることもなく出て行った。


「なんだよ、コソコソじゃねーとしゃべれねーのかよ、あいつら。なんか最後に負け犬の遠吠えでも吠えてけよ」

「もー、ほんと深月は根に持つねえ」

 さっきから困ったように明翔が笑っている。


「え……明翔、メイク落としてねえの?」

「落としてるよ。俺は深月と違って軽いメイクだったからあんま変わんないよね。まあー魔法少女だから。少女がヅカばりにメイク濃かったらおかしいから」

 メイクなしでもこんな透明感えげつなかったっけ……。


「深月がアクロバットできるなんて知らなかったからびっくりしたー。黒岩くんとは打ち合わせしてたの?」

「してねえよ。アクロバットなんかできるわけねーじゃん。練習全部飛んだから何かしねーとって暴れただけ」

「え?! そうだったの?!」

「もーね、キレイさっぱりどっか飛んでったの。何ひとつ思い出せないの」

「あはは! とっさであのパフォーマンスはすごいね!」


「ツンと明翔のマネしただけだよ。俺ツンがキャットタワーから飛び降りる時にすげーなっていつも凝視してっからさー、それでとっさに出たんだろうな」

「へー。俺のことも、いつも見てるの?」

「え?」


 明翔がうれしそうに笑って俺を見ている。えーと……?


「ま、まあ、見てるよね。今もなんかほら、このように」

「あはは! なんでそんな挙動不審なの」


 いやー、なんか変だわ。

 普段は顔はかわいくても男っぽい体格だし運動神経抜群で元気な男の子な感じなのに、仕草まで女の子っぽい女装中のインパクトが残ってる。


「はい、呂久村! 荷物全部まとめたよ」

「なんで俺が荷物持ち確定してんだよ!」

「一番クオリティが低かったんだから、荷物持ちくらいしてもバチは当たらないだろ」

 黄色と黒のチェックのシャツにジーパン、黒髪短髪の一条がデカいイオンの袋3つを差し出している。強がっているが腕が重さに耐えきれずプルプルしてるから仕方なく受け取る。


「一条、女のカッコの方が似合うんじゃねーの」

「はっ。寝言は寝てから言え。いつでも寝てるような顔してるから今のも寝言か」

「いや、なんでそんな攻撃的なんだよ」

「ふんっ」


 機嫌悪そうに一条が去っていく。似合うってほめてんのに、何あの態度。イヤーな顔して、無言ながら一条を指差して明翔にアピールする。

 明翔も苦笑いしながら一条の方を見た。

「この女装甲子園に参加して、優にとっては良かったかも」

「え?」

「ずっと男のカッコしてるだろ、優。でも、俺見ちゃったんだよね。そこの鏡の前でこそっとスカート広げてみたりして女の子な自分の姿を見てたの」


「女の子なって、別に男のカッコしてたって女は女じゃん」

「たぶん、優にとっては男装は本当に男になるための手段なんだよ」

「なってねえじゃん。女は女じゃん」

「んー、優にとっては、男なんだよ」


 ……むず。


「明翔ー!」

「はーい」

 一条に呼ばれて、明翔が小走りに寄って行く。


 俺の横でスマホをいじっていた颯太が目を上げた。

「深月が一条のことを女は女って言ってると違和感ある」

「なんで?」

「だって深月、明翔のことは男は男だって一条を男に置き換えたようには思ってねえだろ。おんなじ顔してんのに」


「……おんなじ顔じゃねーよ。別人なんだから、よく似てるけど違うのが明翔と一条だよ」

 聞こえてるはずなのに、颯太は任侠の世界から帰って来ない。ダウンロードのわずかな時間に微妙なこと言ってんじゃねーよ。

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