第66話 黒岩くんの友達

 地元の駅に着いた時には、もう夜8時前で真夏でもさすがに暗い。

「本当にいいのかい? 黒岩くんのおかげで優勝できたようなものなのに僕たちで賞金を分けて」

「いいんだよ。僕は特にお金が欲しい理由もないし、みんなと準備した時間がすっごく楽しかったから」

 欲のない子よのお、黒岩くん。理由なんてなくても金ならもらうぞ、俺は。


「僕、友達って呼べるような人いないから、友達がいたらきっとこんな感じかなって。たとえば、柳くんとステージ構成決めてた時とか、一条くんと衣装選んでた時とか、高崎くんと衣装のデッサンしてた時とか、佐藤くんと理想の女子高生について語り合ってた時とか、呂久村くんと……えーと……んん時とか」


 俺との思い出わい。てか、みんなそんな黒岩くんと絡みあったんか。俺だけ何もしてねえ。


「え? 何言ってんの、俺ら友達じゃん」

「うん、そうだよっ、黒岩くん!」


 黒岩くんのメガネの奥のつぶらな瞳が丸く見開かれる。おーおー青春だな、明翔。颯太はおそらくこれはかわいいポイントだと判断して便乗しただけだろう。


「高崎くん、佐藤くん……僕なんかを、友達だと言ってくれるの?」

「てか、ずっと前から友達だと思ってたよ。なんだよ、俺だけだったのかよー。冷たいなー、黒岩くーん」

「高崎くん……やっぱり好きだあ!」

「ありがとー」


 ずいぶんと熱量が違う。

 一条が電柱に貼られているポスターを見付けた。


「あ、ねえみんな、来週祭りだって。現金支給は受け取りにくいなら、ボクたちで黒岩くんを祭り接待しようよ」

「いいねー。俺祭り好き!」

「明翔、今年の金魚すくいはボクが勝たせてもらうよ」

「その勝負乗った! 今年も金魚もヨーヨーも俺が勝つ!」

「毎年やってんのかよ」


「深月、今年も射撃もコイン落としも俺が勝つよっ!」

「させるか、颯太! 今年は祭りキングの座を奪還してやる!」

「君たちも毎年やっているのかい」

「やってる!」


 祭りとなると血沸き肉躍るのじゃ。なんならもう10年以上颯太と勝負してる。


「じゃあ、また来週ー」

「ごきげんようー」

「チャンネルはそのままー」


 ふざけた俺たちのやり取りに、黒岩くんがこっちが驚くくらい笑ってる。

「そこまでおもろくないだろ」

 あまりにも笑ってるもんだから、つられて笑ってしまう。


「あー、おもしろい」

「黒岩くんのがおもしろいわ。よし、俺も黒岩くんのお友達に入るー」

「わざわざ入んなくても友達だよ。ね? 黒岩くん」

 明翔が笑いかける。黒岩くんも通りかかった車のハイビームを受けて真っ白に輝いた笑顔を返す。

「うん!」

「おお! まぶしい笑顔!」

「てか、マジでまぶしい! なんっじゃあの車!」


 黒岩くん、明翔に友達友達言われて喜んでるけど、明翔を好きなら友達で満足していていいのだろうか。

 まー、あんなにうれしそうだから、きっといいんだろうな。

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