第63話 開幕! 女装甲子園
「チーム・聖天坂高校の皆さんは5番目でお願いします」
ショッピングセンターのステージ舞台裏で、出場者以外は端に追いやられ舞台口に近い所から1番目のグループを先頭に並んでいく。
「これ、ビジュアル的に俺らが先に出たら他がかすむから最後なんじゃね?」
「おそらく、そうだろうね。これはビジュアル部門はもらったようなものだね」
「問題はパフォーマンスだよねっ。他のチームは何するんだろう?」
「俺らは衣装もまとまりないし、パフォーマンスより見た目のインパクト重視だからなあ」
「とにかく役になり切って、ボクたちのパフォーマンスを見せようじゃないか!」
午後4時。いよいよ第1回女装甲子園の開幕である。司会がしゃべってんのが聞こえる。
「やっべ。こんなカッコしてんのに緊張してきた」
「こんなカッコしてるから、緊張するんじゃないの」
明翔が俺を見上げて笑う。かわいい……余計に緊張する!
メイクを施した明翔はマジで可憐。透明感半端ない。
「はいはい、てのひらに人書いて飲んで」
「古典的~」
「昔から人は人を飲んで緊張に耐えてきたんだよ」
「人は人を飲んでとかこえーわ」
いつものノリで笑ったらちょっと緊張がマシになった。ちゃんと人も3回飲んでおく。
トップバッターのグループが終わったみたいで、大きな拍手が起こったと思ったら舞台袖から下りてきた。けっこう盛り上げたみたいだな、トップバッター。メンバーの顔も楽しそうにみんな笑っている。
2組目は残念ながらすべったようだな。拍手は起きていたものの、死んだ顔でみなさんが戻って来た。優勝したら最後に再びステージに出るのに、早くもメイクを落としにかかっている。
3組目はダンスパフォーマンスをしているみたいで、アップテンポの音楽と大きな手拍子と歓声が聞こえる。ダンスグループだったのかな。完全に冷え切った空気を温め直すことに成功したようだ。
こうなると4組目は難しいところだな。小柄さんばかりが固まっている。全員黒髪ストレートのウィッグで、おそろいの大きなえりが薄いグレーのセーラー服を着ている。あの地味な5人組かな。みんな舞台口からステージをのぞいていて、顔は見えない。
3組目が舞台袖から下りてきて、4組目が階段を上っていく。出た瞬間、うおおおおおと野太い歓声が響いた。
「え? なんで出ただけでこんなウケてんの?!」
びっくりして舞台口からステージをのぞく。黒岩くんも走って来た。
「あ! あの制服なんか見たことあると思ったら、今人気急上昇中のセーラーアイドルの制服だ!」
「セーラーアイドル?!」
「同じ中学校に通う地味で真面目なセーラー服の5人組が地下活動から始めて、地味に努力を重ね最後にド派手に武道館でライブを成功させるアニメだよ。すごいクオリティでセーラー服を作り込んでる!」
地味だからこそ湧かせられるコスプレもあったのか! 流行ものは強いぞ!
「大丈夫! 俺たちだってやれることはやった! 作戦も練った! いける! 自信持って行こう!」
明るく発破をかけるのはいつものように明翔だ。
「そうだな、あんなに真剣にみんなで考えたんだ、自信持とう!」
「僕は元から自信満々だよ」
「柳はもうちょっと謙虚になれ!」
4組目が舞台裏に戻って来る。思わず目が行く。
地味な5人が、派手な衣装を身にまとう俺たちに一瞥をくれてヒソヒソと話している。
陰険なやつらめ! あんな派手な服着る必要なんてないのにね、僕たちはこんなに地味でも会場を揺らしたのに、とあざ笑っているのが聞こえる。クソが!
スタッフさんに階段上って、とジェスチャーされて柳を先頭に階段を上る。
「チーム・聖天坂高校の皆さん、カモーン!」
司会の声に、柳が自信満々に姿勢良くステージへと歩きだした。
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