第62話 舞台裏にて

 高2のアツい夏休みが始まった。

 黒いキラキラがたくさん付いた派手な衣装に着替えた俺は、裏からステージをのぞく。


 女装甲子園の舞台はショッピングセンターのステージである。買い物に来た時にたまたま地下アイドルなのか見たことないアイドルが歌って踊ってしてるのを2階から見たことがあったが、まさか自分が女装して同じステージに立つことになるとは思ってもいなかった。


「思ってたよりしょぼい。これで甲子園とか図々しい」

「まあ、まだ第1回だから。来年からはもっと盛り上がるよ、きっと」


 舞台裏には他の出場グループもいるが、イケメン高校生が女子の制服借りてきましたな感じで俺らほど気合いの入った衣装を着ているヤツはいない。そらそうか。普通はこんな衣装用意できない。衣装はすべて一条のソウルメイトから借りた。


 ライバルのくせに明翔、一条、颯太、柳の写真を撮りまくっている。まだ衣装に着替えてウィッグをかぶっただけで女装は完了していないんだが。


 俺と黒岩くんだけがヒマだ。なので、俺から黒岩くんにメイクをしてもらう。

 

 黒岩くんは気持ち悪いくらいメイクがうまい。俺の男くさい凡顔がつけまつげとアイラインと何とかシャドーだなんやかんやで派手な宝塚風になった。道具も黒岩くん持参だし、実は自分でもメイクしてんじゃねーのか。


「俺でこれなら、絶対優勝じゃん」

「でも、全5組なのにまだ4組しかいないよ」

「集合時間が早すぎるんだよ。なんで開始時間は4時からなのに2時に入らなきゃなんねえんだよ」

「まあ、準備時間も込みだから」


 機嫌の悪い俺を愛想笑いをしながらなだめてくれるもんだから、つい黒岩くんに文句を垂れ流してしまう。


 明翔はまだメイクしてねえのに、ギャルメイクの女装高校生に肩を抱かれてツーショットを撮っている。ノリがいいから、どんどんエスカレートして女子高生になりきってハグしたりキャピキャピしとる。


「はい、できた」

「じゃー次、明翔呼んで来るわ」

「こっちも高崎くん用の道具準備しておくね」

 明翔用とか用意してんのか。すごいな。


 明翔の方へと歩いて行くと、俺に気付いてすげえ! と笑った。

「明翔。俺終わったからお前メイクしろ」

「うん!」

「えぇー、行っちゃうのー? メイクしなくてもかわいいのにー」

「代わりに俺と写真撮る?」


 背の低い女装高校生に、ヒール込みで190センチを超える俺が顔を寄せると、ヘラヘラしてたくせにヒィッと走って行ってしまった。

 ふん、つまらん。


「おら、行くぞ、明翔」

「なんか深月、女装したらなおさら男っぽくなってるね。俺なんか女の子になった気分なんだけど」

 ロングヘアのウィッグをかぶった明翔が口元に手をやって首をかしげて笑いかけてくる。自然と仕草まで女の子っぽくなっている。


 ……女の子にしか見えねえ!

 元から俺には女に見えてたのに、さらに磨きがかかってもう完全に女の子にしか見えない。メイク前でこれって、メイクしたら女の子すら超えるんじゃないのか?!


 メイクされる明翔を見ていられる気がしなくて、周りを見回して気持ちを落ち着かせていると小柄な男子ばかり5人が入って来た。みんな大きなリュックを背負い、揃いも揃ってメガネをかけている。


 他の3組は女友達も多く一緒に来ていて、いかにもイケメングループが周りから出ろよーってはやし立てられて出場するんだろうなって印象なのに対して、こちらの5人は部外者ナシの5人だけのようだ。


 オタロードに生息するガチオタっぽいが、素材があれじゃ女装したって地味だろうな。やっぱり優勝は決まったようなもんだ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る