第60話 呂久村家だよ、全員集合!

 夏休み前、最後の日曜日である。

 ピーンポーンとインターホンが鳴り、デレが玄関へとのんびり歩いて行き俺はオートロックを開ける。


 ドアを開けて廊下に出ると、明翔が階段を駆け上がってる音が聞こえる。上り切って、は! と体操選手のように両手を上げ、90度体を反転させてこちらを向くと俺がいることに気付いてうれしそうに笑って走ってくる。クッソかわいいな、おい。


「深月っていつも出迎えてくれるね」

「ん? まあ、特に意味はないけどな」

「そういうとこ好き」

 ……いきなり、かましてくるなあ、明翔……。


「おお! デレ~」

 明翔がデレを抱き上げようとすると、ツンが猛ダッシュしてきてタンッと爪の音を響かせ明翔の胸元へと飛んだ。

「うわ! びっくりした! すげージャンプ力!」

 とっさにツンを抱きとめている。


「もしかして、ツンがヤキモチ? 明翔がデレを抱っこするのを必死の阻止?」

 あり得ない光景を見た。まさか、あの孤高の美猫ツンが……。


「マジでー。ヤキモチ焼くとか超かわいいじゃん。かわいいなあ、ツンー。よしよし、いい子いい子」

 明翔が満足そうにツンを抱っこしてリビングへと入って行く。


 ええー……嘘だろ、あのツンが、ヤキモチなんか……。

「どうしたのっ? 深月。ボーっとして」

「違う颯太。呆然としてるの」

「元からボーっとした顔をしているから違いが分からないよ、呂久村くん」

「そのいらんこと言うクセは今すぐ直せ、柳」

「お邪魔しまーす。あ! ネコ?! かわいい!」


 一条がデレを見て甲高い声を出す。うわ! 女の子みたいな声出るんだ、一条。

 ネコ好きを察したデレが一条の足元でじゃれつく。

「抱っこしても大丈夫? 呂久村!」

「大丈夫。一条こそアレルギーとかなければ」

「ないない! 検査したことはないけど、よくネコ見付けたら抱っこしてるから」


 デレは人懐っこいけど、外で遭遇するネコなんて警戒されて抱っこなんて俺できたことねーぞ。明翔といい、このいとこ同士はネコに好かれるマタタビフェロモンでも出とるんか。


「へえ、呂久村くん、ネコ飼ってるんだ。かわいいね」

「黒岩くんもネコ好き? 抱っこさせてもらう?」

「あ、ごめん、ネコを見るのは好きなんだけど、僕ネコアレルギーなんだ」

「そうなんだ? たぶん毛とか落ちてると思うんだけど大丈夫かな」

 こまめに掃除はしてるけど、完全に取り切るのは至難の業だ。


 家にこんなに友達が遊びに来るのは久しぶりだ。ツンとデレを飼い始めた頃は中学からつるんでたヤンキー友達も珍しがってよく来たけど、2匹の家族のために家の中にずっといたい俺と外で遊びたい友達たちは会わなくなっていった。


「では、作戦会議を始めよう! 熱闘女装甲子園で優勝して100万円を得るために!」

 リビングに6人と2匹が全員集合である。

「柳も金欲しいんだ?」

「割と切実に欲しい。この金髪を維持するにも結構なお金がかかるんだよ。データによると、根本の黒さが目立つ男はこまめに染めている男より3割もモテなくなる」

「どこからそのデータを得てるんだ」


「全員一丸となってガチで勝ちを取りに行こう!」

「まずは、審査方法を確認しないとな。えーと、主催者側の審査員と、会場の観客からの投票で得た支持によってビジュアル部門、パフォーマンス部門の各部門と総合優勝が決まる」

「パフォーマンス?」

「アピールタイムがあって、そこでのパフォーマンスを評価されるらしい」

「登場のインパクトと、アピールタイムに何をするかが鍵だね」

「インパクト重視でいくなら、顔がそっくりな美形のふたりをまず登場させるか」

「インパクトが強すぎて尻すぼみにならないかなっ?」


「じゃあ、まず最もしょぼそうな呂久村くんから出るかい?」

「それじゃあ、期待されずに客が減ってしまう」

 どうしてこうも柳と一条の会話は俺をムカつかせるんだろうか。かみつけ、デレ。一条がひざに乗せなでているデレは気持ち良さそうに目を閉じている。


「深月が宝塚路線でいくんなら柳も男役で俺と優と颯太は女役でまんま再現するとかは? 何か歌ってみてよ」

「えー、俺歌はあんまり得意じゃねえんだよなあ」

 と言いつつ、けっこーノリノリで大声で歌う。声のデカさには自信がある。


「もういい! 宝塚再現は無理だ。ジャイアンリサイタルを聞いてる気分だよ」

「あんまり得意じゃないってレベルじゃないね。ド下手と言っていいだろう。さて、どうしようか、一条くん」

「呂久村はオチ担当だ。最後に登場してもらう」

「じゃあ、僕たち4人が最大限に魅力を発揮できるように真剣に考えないとね」

「そうだな。呂久村とボクたちの落差がはっきりと分かるように」


 このチームの頭脳担当ふたり、俺を戦力から外しだしたぞ。ムッとしていたら、悲し気に黒岩くんが話しかけてきた。

「チームに入れただけ、まだいいじゃないか……」

「あ。なんかごめん」

 ネコアレルギーの黒岩くんの顔にニキビよりも大きな発疹がポツポツと現れ、それをポリポリとかいている。なんか、いろいろとごめん、黒岩くん。

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