第59話 初開催、女装甲子園

「女装甲子園?」

「そう! 高崎くんがいれば絶対優勝できると思って、チラシもらってきたんだ!」


 黒岩くんが俺の机の上にチラシを置く。俺、明翔、颯太、柳、一条がのぞき込む。

「第1回 熱闘女装甲子園 男子高校生のもうひとつの熱い闘いがここに!」

「へえ、5人1組で出場か」

「君たち4人と僕で5人」

「おお! 賞金100万だって! 出ようぜ、明翔! いつまた金盗られるか分かったもんじゃねえからな! へそくりは必要だ!」

「あれは深月の金の扱いも悪かったけどね」

「100万か。いいね。5人で割ってもひとり20万だ。明翔のウィッグ代が払える」

「払ってないのかよ!」

「20万もするのかよ!」


「一条は出られないよ。女装じゃなくなっちゃうもんっ」

「でも、顔がそっくりなメンバーがいるっていうのは審査員に大きなインパクトを与えることができるね」

「女装甲子園に女子が出たんじゃ反則だよっ」

「100万だぞ、100万! 細かいこと言ってんじゃねーよ、颯太」

「一条くんの胸平っぷりなら女子だとバレないんじゃないかな。どこまでも平らで骨っぽくて男装に適した体つきをしている」

「異議はないが殺したくなってきたよ、柳」


 改めて一条を見る。短髪の黒髪がさわやかで、もちろん化粧っ気のないキリッとしたイケメンだ。男子の制服がよく似合っている。

「いけんじゃね?」

「不正はダメだよっ、深月! 黒岩くんでいこう!」


 出場資格は、現役男子高校生5人1組。6人目はいらない。

「でもさー、黒岩くんじゃマイナスにしかなんねえよ」

「呂久村くんの言う通りだよ。ニキビだらけの顔で野暮ったいモッサリとした印象の黒岩くんじゃ加点は狙えない」

「お前らひどいな」


「一条くん、身長は?」

「168センチ」

「黒岩くんは?」

「160センチだけど」


「ほら、黒岩くんは一条くんよりもだいぶ背が低い。みんな背が高い中にかなり小柄な佐藤くんがいることでかわいさが引き立つのに、中途半端にチビな黒岩くんが入ると佐藤くんのかわいさが半減してしまうよ」

「男として学校に通ってるんだから、一条は立派な男子高校生だ。不正には当たらないよねっ」

 自分のかわいさのためならあっさり意見を変えやがったな、颯太。


「よし! 俺と明翔と颯太と柳と、一条! この5人で闘うぞ、女装甲子園!」

「女装ねー。興味ねえな。適当に女子に制服借りてJKコスプレでもすればいいのかな」

「適当だと? 明翔、やるからには半端はナシだ。勝負は勝ってこそ意味がある!」

「お! いいね、颯太。そうだな、勝ちを取りに行こう!」


「それぞれのいい所を押し出したコスプレをするべきだ。たとえば、顔は男っぽいが背が高い呂久村くんは宝塚の男役風とかどうだろう」

「いいね、その男くさい凡顔をメイクでごまかせるしね。衣装は任せて。あらゆるコスプレ衣装を網羅しているソウルメイトが何人かいる」

 柳まで乗ってくるとは意外だ。一条は明翔のウィッグを作っていたくらいだし、このふたりが頭脳を担い、美形の明翔、元からかわいい颯太がいれば、マジで100万は俺らの物!


「あ、あの、僕は……」

「チラシ持って来てくれて、ありがとう、黒岩くん!」

「観客投票があるみたいだから、見に来てボクたちに投票してくれ」


 完全にもう帰っていいよ、って空気だな。不憫なヤツだ、黒岩くん。

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