第49話 高崎明翔と一条優の賭け事

 あー、よく寝た。

 伸びをして体をベッドの上に起こすと、高崎明翔がなぜかベッドに乗ってきた。


「明翔?! 何してんの?!」

 ゆったりとしたデカいTシャツ1枚の明翔は妙に女っぽい。

 え? 何? 一条よりよっぽど色っぽいんだけど。


「深月。俺もう我慢するのやめる」

「え? 我慢って何を……」


 俺の言葉を待たずして明翔が抱きついてきたと思ったら顔を接近させてくる。

 びっくりして固まっていたら、背中に柔らかい感触と温もりを感じた。


「呂久村はボクが好きなんでしょ。呂久村がキスするのはボクだよね」

「一条?!」


 耳元で吐息混じりの一条優の声がする。

 え、なんで一条がこんな色っぽいの?!


 前から明翔、後ろから一条に抱きつかれ俺の心臓は狂ったように打ち鳴らす。


「や……やめろ、ふたりとも」

「選んで、深月」

「今すぐ、どちらとキスするのか」

「え?」


 正面には明翔の顔が、首を左にひねれば俺をのぞき込む一条の顔がある。よく似ている。


「選べるか!」

「選ばないなら、深月を殺して俺も死ぬ!」

「ボクだって!」

「よし優、一緒に深月を殺そう。せーの!」

「分かった! 選ぶ! 選ぶから!」


 痛いほどふたりの視線が刺さる。

「俺が、キスするのは……お前だ!」


 ハッと目を見開いた。まだ心臓がめっちゃドキドキしてる。ふたりに抱きつかれた肉感のせいか命の危機か、どっちのドキドキかは分からんが。


 いずれにせよ、夢かよ……。


 はあー……と、安堵なのかガッカリなのか自分では分からないため息が出た。

 月曜の朝からなんちゅー夢見てんだよ。寝起き最悪だわ。絶対昨日のドラマのせいだ。明翔とあんな刺激的なドラマを観たりしたから。


 なんだか気力が湧かなくて身支度も滞り、いつもより遅い時間に家を出た。

 当然、学校に着くのもいつもより遅くなってしまった。教室に入ると、もうすでにクラスメートはほとんど来ているようだ。


 明翔と一条、颯太に柳までが俺らの席の辺りにいる。

 明翔の後ろが俺の席だ。今日も今日とていとこ同士はいがみ合っているようで、朝っぱらから顔を寄せてにらみ合っている。


「おはよー。どしたの?」

「おはよう、呂久村。景品には関係のないことだよ」

「景品?」

「おはよう! 深月。優、深月を物扱いすんじゃねえよ。景品は深月じゃなく、深月を得る権利だ」

「権利?」

「おはよう、深月。明翔も一条も男なら正々堂々、不正なしの勝負をしろよ。俺が見届け人だ」

「勝負?」


「おはよう、呂久村くん。学級委員長として賭けの条件を記録しておくよ。先に呂久村深月の唇を奪った方の勝ち、呂久村深月は勝者のモノ、と」

「はあ?!」


「いいね、明翔! この勝負に負けたら、呂久村のことはスパッと諦めてもらう!」

「受けて立ってやる! 優こそ、負けたら潔く身を引くんだろーな!」


「待て待て待て待て! 何の話だ!」

 人がちょっと登校遅かったからって、何の勝負が始まってんだ、一体!

 慌てて明翔と一条の間に割って入る。


「聞いた通りだ。決定事項だから今さら条件は覆らないが一応説明すると、これはボクと明翔の呂久村を賭けた勝負だ」

「なんで俺がいないのにそんな勝負が決定されてんだよ!」

「安心して、深月。俺は絶対に負けない!」

「そんな勝負されてたまるか! ヤメだヤメ! 勝手にめちゃくちゃな賭け事おっぱじめてんじゃねえ!」


「深月」

 颯太がかわいい顔に似つかわないドスの利いた声で俺を制す。

「野暮なことを言うな。勝負の世界に半端はナシだ」

 任侠モード入りまくってっけど、賭かってんのはタマじゃなく俺の唇なんだよ!


 ダメだ、全員完全に一条に乗せられてる。

 明翔は勝負を吹っ掛けれられると今んとこ全部100%受けている。おそらく相当な負けず嫌いだ。加えて颯太だ。勝負だ賭けだ言われたら任侠モード入って漢になる。

 さらには柳だ。こいつは何の役にも立たないただのパンツ王子だ。


「さてと、どんな作戦で呂久村の唇をいただこうかなあ。楽しみだなー」

「何を仕掛けてこようと俺が全部跳ね返してやるからな! 優の思い通りにはさせねえ!」

「できるもんならやってみなよ」

「ああ、やってやるよ!」


 ……マジか……。

 神よ、イベントを楽しむってこんなにハードル高かったんですか。どう楽しんだらいいんですか、これ!

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