第50話 佐藤颯太と教育実習生
朝礼である。全校生徒がグラウンドに出て、すっかり暑くなってきた中なげー話聞かされんだろうなあ、とだらけムード満載である。
「教育実習生を紹介します」
との声に顔を上げて前を見ると、スーツを着た女性ふたりと男性ひとりが朝礼台に上がっていく。
さらーっと紹介されて、3人が頭を下げて朝礼台を降りていく。
呂久村な俺は朝礼台から遥かに離れているので、顔などほとんど見えない。
朝礼が終わり、教室へ戻ろうとすると、小柄な佐藤颯太が走ってきた。
「深月、ちーちゃん覚えてるか?」
「あー、颯太が惚れた
「惚れてねえ。俺が愛する女は生涯ただひとりと決めている」
「な割に唐突に思い出してんじゃん。何、いきなり兄の元カノ思い出してんの」
「ちーちゃんじゃないか? あの教育実習生」
「え? 分かんねえ、俺顔見えなかった」
「そっか……」
颯太がソワソワしている。
もしも本当にちーちゃんなら、そらそうなるわな。
教育実習生は、2週間この学校で教師になるべく実習を行う。
担任教師が入って来ると、その後に3人の教育実習生も続いた。
お、来たじゃん、教育実習生。
教室で見ると、まず女性ふたりが対照的で笑える。ひとりは黒髪ロングで小柄な和風美人。もうひとりは茶髪ショートで背も高ければ全体的に丸みがあって特に胸が大きくて無意識に目が行く。
すっげー、漫画みたいな巨乳。もうひとりの平らっぷりが際立つ。
……あー、たしかにあの胸平らな人はちーちゃんっぽい気もするけど、どヤンキーの印象しかねえからきちんとスーツ着てる時点で別人にしか見えない。
担任に促され、実習生たちが黒板に名前を書く。向かって右から、武内友則、足立由花子、浪川千殺人。教室が盛大にざわついたが、その中で颯太がちーちゃん! と小さく叫んだのが俺には聞こえた。
武内先生からひとりずつ自己紹介をしていく。が、みんな浪川先生の番が待ち遠しくて聞いちゃいない。
「
めちゃくちゃな親だな。そりゃそんな誤った大人をひとりでも輩出するのを阻止すべく教師を目指すわけだ。
「千殺人の千は千差万別から1字を取ったものですが、千差万別とは、あらゆるものという意味ではなく、あらゆるものはすべて違うものなのだ、という意味です。この誤りに気付いた時、私は国語教師になろうと決めました!」
熱血教師かって勢いで教卓にバン! と手を付く。
瞬時に颯太が拍手を送り、ポカンとしたままクラスメートたちも手を叩いた。
休み時間になると、颯太がテテッと走ってくる。
「ちーちゃんだった!」
「ちーちゃんだったな」
「ちーちゃん、先生になんのか……」
颯太が童顔のかわいい顔で憂いをまとう。
「ちーちゃんって誰なんだい?」
柳龍二が真剣な眼差しで尋ねる。
「颯太の初恋の相手だよ。教育実習生の胸が平らな方」
「え? あの
「名前みたいに言うなよ」
振り返って驚いてる明翔に苦言を呈しておく。
「男子みんな呼んでるよ。胸平さんと
「そして、そんな男子に女子みんなが引いてるよ」
一条も呆れたように言う。周りを見回すと、たしかに盛り上がってる男子と冷めた目の女子の対比がひどい。
「平さんは颯太の初恋相手であり、颯太の兄ちゃんの幼なじみかつ元カノなんだよ」
「へえ、佐藤くんとしては複雑だね」
「告ったの? 颯太」
「平さんを脳内で男に変換して話を聞くよ。おもしろそう」
みんな興味津々だが、あまり勝手にしゃべって後で颯太にシメられたのではたまらない。
「ふっ。聞かせるような話じゃねえよ。ペラペラくだらない話をするな、深月」
颯太が盛大にカッコつけている。これしゃべってOKだな。
てか、かわいいフリ忘れてっけどいいのか、颯太。
「颯太の兄弟はみんな年子なんだけど、颯太だけ年離れててさ。すぐ上の兄ちゃんが5歳違いで芳樹くんてゆーの。で、芳樹くんの幼なじみで中学生の時に彼女に格上げされたのがちーちゃん」
ちーちゃんとは、俺もよく遊んでもらった。俺と颯太が互いの家に行き来するようになったのが年中さんの頃で、その頃小3だったちーちゃんはよく颯太の家に他の友達と遊びに来ていた。
が、その後高学年になるとまったく遊びに来なくなり数年会わなかった。再会したちーちゃんは、芳樹くんの彼女になっていた。
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