第48話 呂久村深月の女遍歴

 9時になり、待ちに待った毎週楽しみに見ていたドラマの最終回が始まった。

 高校生のドタバタギャグラブコメで、ブレないコメディ路線がお気に入りポイントだ。


 ったのだが。


 最終回だけ急にノリが違う。

 まったくドタバタせず、高校を卒業したふたりがしょっぱなからチューしまくってる。めっちゃイチャイチャしてる。

 大人の階段を上ろうとするふたりのラブコメ風エロドラマと化している。

 なんで最終回で突然こんなラブシーン満載のキュンキュン系ラブコメに大変身してんの?!


 9時半を過ぎ、ついにはベッドシーンが始まってしまった。

 いやいやいや、日曜のゴールデンタイムにコレいいの?! ネット大荒れなんじゃねーの?!

 てこれは、地上波ではNGだろ!


 明翔はじーっとテレビを見ている。

 ……何考えてんだろ。いやに集中して見てるけど。


 いよいよってところでCMに入った。

 ふう、CM明けたら終わってるパターンだよな。山場は去ったか。ひと安心だ。


「ねえ、女と付き合ったことあるってことはさ、深月は女とやったことあんの?」

「ぶっ」


 純粋無垢な目でなんちゅー質問を……!


「サラッと下ネタいくねえ、明翔くん」

「ねえ、あるの?」


 あー、女と付き合ったことのない明翔にとっては興味津々かあ。言わなきゃ終わんねえな、これ。


「あるよ」

「どんな感じ?」

「どんなも何も」

「やっぱり気持ちいいの? どれくらい気持ちいいの?」

「明翔あ……」

 もー、ほんっとストレートなんだから……。しゃあねえ。俺も腹決めて明翔としゃべるか。


「てか、思い出したくもねえ。やったら女が豹変するって刷り込まれちゃってて」

「そんなイヤな目に遭ったの? 深月ってこれまでどんな女と付き合ってたの?」


「深夜になっげー病みメールしてくるから、うっせー寝かせろって返したら永遠の眠りにつきますって書き置き残してリストカットされたり」

「げ! いきなり重!」


「ペアリングを学校に付けて来いって言うから、校則でアクセ禁止だからまず校則変えて来いって言ったら校長を急襲されたりとか」

「校長かわいそ!」


「日直でペアの女としゃべってたら他の女としゃべらないでって言うから、じゃあお前が一切男としゃべらずに過ごせたならそうするよって言ったら停学なるまで先生ともしゃべらなくて教室の空気地獄になったり」

「うわー、クラスメート迷惑ー」


「10分に1回は電話してってうるせーから着拒したら、何がどうなったのか警察沙汰になってて家に刑事が来たりだとか」

「もういい! 恐ろし! 女と付き合うとそんな目に遭うの?!」

 明翔がすっかり顔面蒼白になっている。


 女と付き合うとって言うか、俺の女運がなさすぎるだけな気もするけど……。

「そうだぞ、明翔。だから、間違っても女と付き合おうだなんて考えるなよ」

「何気に俺が女に興味持たないように誘導してる?」

「えっ、し……してねえよ!」

「ふーん?」


 明翔が笑って、CMの明けたドラマをまた見始めた。

 驚くことにベッドシーンが終わってない。ガンガン気持ちいいよ、とか言っちゃってるんだけど。

 放送終了まで残り10分ほどだろうにどう最終回をまとめるつもりだろうか。


 ……ちょっと待て。

 この流れ、BL的にはもしかして、

「女と付き合うなって言うなら、深月が俺を気持ち良くさせてよ」

 とかって迫られる?!


 そんなことになったら、どうしよう?!

 俺、心の準備も何もできてない!


 明翔の顔も見られず、大人のDVDのようなドラマの画面を食い入るように見ながらもドラマの内容はまったく頭に入って来ない。

 気が付いたら、さっきまでベッドだったのにいつの間にか結婚式を挙げている。そのままドラマは終わった。何だったんだ、この最終回。


「ドラマも終わったし、かーえろ」

 ひざで寝そべっていたツンをソファに移し、明翔が伸びをして立ち上がった。

「え?! あ、なんだ、えらいあっさり帰るんだな」

 しまった、拍子抜けして変なことを口走ってしまった。


 首をかしげて明翔が振り向く。

「俺が一緒に気持ち良くなろうよ、とか言うとでも思ってたの?」

「なっ、なんで明翔がそんな刺激的なセリフ知ってるんだよ?!」


「だって、優とドラマ見てたらさー、BL的にはこの後攻めが受けを押し倒して泣いて嫌がる受けにキスしたら麻酔でも打たれたかのように抵抗しなくなるんだけど心の中ではまだイヤだって思ってて、でも体は反応しちゃってってずーっとブツブツ言われるからさあ」

「一条、ドラマ見ながらそんな濃いこと言い出すんだ……」

 絶対一緒にドラマ見たくない。


「久しぶりにドラマに集中して純粋に楽しめた! また新しいドラマ始まるだろうから一緒に見ようよ」

「お、おう!」


 また明日ー、とさわやかな笑顔を俺の胸に残し明翔が帰って行った。


 そうか、楽しんでくれて良かったよ、明翔。

 俺は全然ドラマに集中できなかったし、まるで純粋に楽しめなかったけどな!

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