第47話 高崎明翔との約束

 ツンの催促に負けて、明翔がまたツンをなでる。今まで見たことない、小さい子供がひとりで留守番してるみたいに寂しそうに。


「無理しないで、泣きたい時には泣けばいいんだぞ?」

「ううん、俺は泣かない。父ちゃんとじいちゃんが明翔は泣くなってしょっちゅう言ってたから」

「なんで? 男は泣くな、みたいな?」

「たぶん、俺の顔のせいじゃねえかなあ」

「顔?」


「俺は母ちゃんにそっくりだけど、母ちゃんもばあちゃんにそっくりなんだよ。ばあちゃんの写真見て母ちゃんの時代の写真ってえらい古臭いんだなって言ったくらい」

「3代そろって似てんのかよ!」

「だから、父ちゃんとじいちゃんが俺らの遺伝子が弱くてごめんなあって、冗談半分によく言ってた」

 と、明翔も笑う。


「ふたりとも野球やってたし、体育会系ノリではこういう女顔はいじめられたりもあったみたい。それで、すげー心配しててさ。俺は大丈夫だよって言ってたんだけど、身長が伸びるジュースとか筋肉が付く飲み物とかお茶代わりに飲まされてさ」

「それで、やたら筋肉付いてたんじゃねえの?」

「あ! そうかも! 飲まなくなったから筋肉落ちたのかな」


 なんじゃそりゃ。体質じゃなくて環境に要因があったのか。


「まあ、おかげで男らしい体型になったから感謝してる。深月みたいに俺のこと女だと思う方が珍しいよ」

「う……と、とにかく、俺は何もできねえし、父ちゃんやじいちゃんみたいに明翔の力になれねえかもしれないけど、俺は誰よりもお前が大事だ」


 泣かないって言ってたのに、明翔の顔が泣きそうにくしゃっとなった。でも、堪える。根性あるな、明翔。

 

「深月はもう俺の力になってるよ」

 明翔が笑って俺を見る。

 いや、俺なんっもしてねえ。


「俺、優が不登校になって、2年には上がれたけど3年には進級できずに退学になるだろうって聞いて、うちの高校に来ればいいのにって思った。そしたら俺が守ってやるのにって。でも、言えなかった。俺が優を守るって気持ちを持ち続けられるか微妙だったし、今学校が楽しいのに優が来たらめちゃくちゃにされるんじゃないかって思って」

 ツンをなでながら、明翔が淡々と語る。明翔が自分の内面をこんなに話してくれたのも初めてじゃねえかな。


 何気なく明翔を見ていたら、不意に顔を上げて満面の笑顔を見せつける。盛大にドキッとした。


「前にここに来た時にさ、深月が俺がバカなマネしたら後を追うとまで言ってくれて、すげーうれしかったの。深月さえいれば、他はめちゃくちゃにされてもいいやって思えたから、家に帰って母ちゃんに優を転校させてくれって言った」


 明翔にとっては、大きな決断だったんだろうな。

「よく言ったよ、明翔。偉かった」

「ねえ、深月は今どれくらい俺のこと好き? それとも、友情? 親友だからそんなこと言ってくれんの?」

 ほんと、明翔はストレートに思ったことをぶつけてくるなあ……。


「なんかねえ、頭ぐちゃぐちゃで自分でも何が何だか分かんねえの」

「あはは! そうなんだ」

「でもな、明翔。ひとつだけ、約束してくれ」

「何?」


「絶対に自分で自分の人生を終わらせようなんて考えるな。もしも、どうしてもそうしたくなったら、まず俺を終わらせに来い」

「え?」

「まずは俺を殺してから、本当に終わらせたいのかもう1回考えろ」


「俺にできるわけないじゃん」

「だろ。だから、約束して」

「俺の気まぐれで殺されてもいいの? 俺けっこう気まぐれさんだよ」

「知ってる。そういう所もネコっぽい」


 思わず互いのひざに乗るツンとデレに目が行って笑った。

「俺が殺されても、明翔が死んだらやべーなって気付いて生きてくれたらそれでいい」

「どこまで悟り開いちゃったの、深月」

「分かんない。昨日お前のことばっか考えてたらこうなった」


「俺のことばっか考えてたの? それもう、俺のこと好きなんじゃないの」

「と、とにかく! 約束しろ! 分かったな?」

「分かったよ。俺、深月が好きだから自分を殺る前に深月を殺る!」

「いや、できれば俺のことも殺らんでほしい」


 明翔が笑ってる。

 良かった。俺は明翔みたいに素直でストレートな言葉にできねえけど、どうしても取り付けたかった約束はできた。

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