第44話 呂久村深月にできること

 彼に足りないもの、あなたが与えられるもの、あなたにしかできないこと……神からの貴重なお言葉を眺め、考える。


 明翔に足りないもの?

 ごはんを食べ終え、毛づくろいに熱心なツンを見る。


 明翔に足りないのは、甘えることだ。

 明翔はひとりで、誰にも頼らず耐えてしまう。


 父親やじいちゃんを亡くしたこと、母親が自分よりも一条を優先すること、……そして、同じような顔なのに俺が顔だけで一条は好きになったのに明翔のことは男だしと思ってしまうこと。

 もっと、俺が気付いていない、話を聞いていないこともあるかもしれない。


 いろんな寂しさや悔しさを明翔はもっと打ち明けていくべきだ。

 たぶん、明翔は無理に笑ってるワケでもない。俺を好きだと思ったらすぐに伝えてきたし、俺にムカついたら無視したりもするし、俺に自分から離れろと言ったりもする。ツンと同じで、わりと気ままに見える。


 でも、甘えないんだ。感情は見せるけど、弱さは見せない。

 だから、不気味なんだ。普通は自分で自分の人生を終わらせるなんて勇気のいることをそうそうできない。でも、明翔ならやってのけてしまいそうで怖い。


 ツンにとっての明翔のように、取り繕うことなく休まる場所が明翔には必要だ。


 俺が明翔に与えられるもの……なんか、あるかなあ。

 何も思いつかない。明翔は俺よりよっぽど何でもできる。


 俺にしかできないことなんか、もっと思いつかない。そもそも俺にできることが少ないせいかもしれない。

 俺は運動神経しか取り柄がないのに、明翔には負けた。


 こんな俺に、何ができるだろう。明翔のために俺ができることは何だろう。


 スマホの通知が鳴った。見ると、明翔だ。

「明日、メシ作りに行っていい?」

 明日……ツンを見ると、珍しくデレに寄り添って2匹仲良く眠っている。


「いいよ。存分に作ってくれ!」

「深月も作り方覚えて自分でも作れよー」

「はははははははは」

「てっきとーなヤツだな、マジで」


 明日、夕方頃に明翔が来る。買い物して、レシート持って。金は俺が払う。明翔の方がよく食うのに全額俺持ちってのはどうも納得いかない気もするけど、作ってもらうんだからいいのか。


「ツン。明日お前のオアシスが来るぞ」

 水を飲みに来たツンに声をかけた。

「キシャー!」

「なんでしゃべっただけで威嚇するんだよ、お前は!」

 水を飲んだツンが、寝床へ戻りしな俺の足に額をこすりつけて甘えるような仕草をした。


 お、珍しい……俺にもちょっとは甘える気になったのかな。

 かわいいじゃん、と頭をなでようとすると、

「キシャー!」

「何なんだよ、お前は!」

 こうまで威嚇されると飼い主として傷付くわ!


 軽やかに去って行くツンと入れ替わるようにのんびりとデレがやって来ると、俺のひざに寝そべってくつろぎ始めた。

「やっぱり、お前はかわいいなあ、デレ」

 頭をなでると、気持ち良さそうに目を細めていく。


 かわいいけど、デレは誰にでもこうだ。甘えん坊で人懐っこい。

 ツンみたいに、他の誰にもデレないけどひとりにだけはデレるってのも、なんかいいな。そのひとりに選ばれた明翔がうらやましい。

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