第39話 高崎明翔の孤独

 佐藤颯太、柳龍二と並んで歩く。

「ふたごの子供同士が同級生って、なんだかどこまでもおそろいって言うか同じなんだな」

 ボソッと言うと、

「僕は年子の兄がいるんだけど、何かと比べられたりイヤな思いもしたものだよ。同じような顔の同級生だとなおさらだろうね」

 と柳が風に乱れた金髪の髪を触りながら言った。


「兄弟って一番身近なライバルだもんねっ。俺は年の離れた末っ子だからやたらとかわいがられたけど、それでも勝手にライバル意識持ってオカン……ママにほめてもらいたかったもんだよ」

「え、兄弟ってそんな感じなの? もっと仲良しこよしなもんじゃねーの? 家の中に友達がいる、みたいな」

「それは、ひとりっ子の幻想だよ。まあ、仲良しこよしの兄弟もいるかもしれないけど、僕の周りにはたぶんいないなあ」

「その点、姉妹だと仲良しこよしなイメージあるよねっ。姉妹コーデとかっておそろいの服着たり」


 それも、姉妹のきょうだいがいないからの幻想じゃないのか。当事者じゃないと、分からないんだ。


 柳、颯太と別れ、コンビニに寄って弁当を買って帰る。

 家に入ると、デレがナア、と出迎えてくれる。


「ただいま、デレー」

 抱き上げてギュッと抱きしめると、やめろ、と言わんばかりに腕から逃げ出し肩へと上って行く。


 リビングに入ってベランダへと続くガラス戸を見ると、ツンがおっさんのように座りながら目を閉じている。

 寝てんのか……ご主人様が帰宅してもあいさつも無しかよ。


 孤高の美猫、ツンは人に一切懐かないし甘えたりもしない。孤独が好きなんだと思ってた。でも、明翔にだけは初対面で懐くわ甘えるわ。


 洋風ハンバーグ弁当をチンして食べる。

 やっぱり、コンビニ弁当は味気ねえな。うまいんだけど。


 また、メシ作りに来てくれるかな、明翔。

 一条が道を覚えてひとりで帰れるようになったら、また来てくれるかな。


 高崎明翔と一条優。ふたごの親から生まれた同じような顔のいとこ同士。おそらく、バッチバチにライバル意識が強い。


 一条が俺を好きだと言い出したのも、明翔が俺を好きだと知った後だ。単に明翔に張り合いたいだけだろう。てか、俺を使って張り合おうとするんじゃない。他人を巻き込むな。


 赤ちゃんの頃から兄弟みたいに一緒に育ったって言ってたよな。一条はシングルマザーっぽいから、高崎家によく来てたのかな。

 明翔の12歳の誕生日までは、明翔と両親と近所にはじいちゃんと、そして一条真衣さんと一条がいたわけか。賑やかそうだな、ほんと、うらやましい。

 ひとりでフッと笑ってしまった。


 だけど、12歳の誕生日に突然明翔の父親を失ってしまう。そして、ほどなくしてじいちゃんまで……あれ? 中学入学を機に一条家は引っ越したって言ってたよな。


 残ったのは、自分よりもいとこを優先するのが染みついている母親だけ。


 俺が小学校の間に一条に告白しなかったことを悔やんでいた中学校に入学した頃、あの頃の明翔はいっぺんに家族がいなくなっちゃって、きっと孤独だったんだ。


 親戚の前でも中里さんに異常に執着する母親のせいで親戚連中から避けられ、離婚で中里さんが出て行き母親は単身赴任。俺は自分を孤独だと思ってた。


 でも、俺に何かあったら中里さんだけはきっとすべてをほっぽってでも駆けつけてくれると思う。不倫が発覚した時に相手が会社を辞め、交際は終了している。いまだに中里さんには特定の相手はいないっぽい。


 明翔には、誰がいるんだろう。まだ俺の知らない、明翔を一番に大事にしてくれる人がいるんだろうか。


 弁当を食い終わっても、ツンはまだ寝てる。気高くて人を寄せ付けず美しいツン。ツンは明翔に自分に似たものを感じたのかもしれない。発露の仕方は真逆だけど。

 心を許した明翔にだけ懐くツン。明翔は逆に、誰とでも仲良くなる。明翔がすぐにお友達になってしまうのは、根っこが寂しいからなんだ。


「ツン。メシだぞ、おいで」

 いつになくツンが愛しく感じられて、優しく声をかけて手を伸ばした。ゆっくりとツンがその大きな目を開く。

「キシャー!」

「おうっ」

 あー、ビビったー。やっぱりかわいくねえな、ツンは!

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