第33話 一条優と高崎明翔

 教卓に立つ担任教師の隣に、学ラン姿の一条優と紹介された生徒が立っている。凛々しく前を見つめ、転校初日ながら堂々たるたたずまいを見せる。


 黒髪の短髪で、細いながらキリッとした眉、その下の大きな鋭い目。小ぶりな鼻にまるで女の子のようにふっくらとした血色の良い唇。

 明翔にそっくりだ。


 明翔は茶髪だしもっと長いマッシュヘア。前髪で眉が隠れているから、パッと見の印象は違うけど、顔はそっくりである。


「あ、高崎くんに似てるんだ」

「似てるってレベルか?! 同じ顔だろ!」

「ああ、このデジャヴ何だろうと思ったら、明翔に似てるからか」


 即座に明翔に似てると思った者もいれば、訳が分からないまま見たことある気がする、と感じた者まで反応は様々ではあるが、全員が明翔と一条優を首振り人形のように見比べている。


「高崎と一条はいとこ同士だ。ふたりのお母さんがふたごらしくて、ふたりとも母親似なため顔はよく似ているが間違えないように!」


 えー! と一際大きなどよめきが起こる。

 もちろん、俺も一番の大声を張り上げた。


 明翔と一条優がいとこ?! 

 なぜか顔が似てると思ってたけど、ガッツリ親戚だったのか!


「ここで、ひとつ大事な話があります。みなさんは、男女平等、ジェンダーレス、ダイバーシティ、などの単語を聞いたことはありますか? 正しく意味を理解しているでしょうか? 我が校では昨年度、皆さんが入学した時から校則を変更し、男子の制服、女子の制服という概念ではなく、学ランとセーラー服の好きな方を着て良いことになりました。ですが、現状は男子が学ラン、女子がセーラー服を着ています。ここまでで何か質問のある人ー?」


 どこで区切ってんだ。みんな真剣に話聞こうとしてたのに!

 担任教師は紙を手に読み上げている。あの文章を渡された時に途中で質問がないか確認するようにとでも言われたのだろうが、タイミング!


「ないようなので続けます。校則が変更された意図は、生徒ひとりひとりが自己の性を認めるためです。体は男に生まれたけれども心は女、逆に女に生まれたけれども心は男である場合、体の性と本人の性に相違が生まれます。この相違をできるだけなくし、本来の性として生活できるように、との配慮です。ですが、体育の着替えなど本来の性のままでは不都合な場合には戸籍上の性のグループか、個別対応を取ります」


 校則の説明になった。何の話を聞かされてんだろう、俺たち。


「というワケでー」

 唐突にノリが軽くなったな。担任教師が紙を教卓に置いて一条優に手を向ける。


「こちらの一条優さんは、戸籍は女性です。ですが、我が校初、女子で学ランを選択されました。拍手!」

 拍手?

 みんなポカンとしながらも担任の大きな拍手につられてパチパチと気のない拍手を送る。当の一条優は担任と同じくハイテンションで思いっきり拍手をしている。


「体育は女子と一緒の着替えを希望したので、女子更衣室で着替えます。体育の授業も水泳や柔道などがあるので女子と一緒に受けます。男子生徒がいやらしい目で見るのが分かってるんで!」

 失礼な! たぶん見るけど、失礼な!


「世の中多様性の世の中です。多様性なんですよ。ごちゃごちゃ言うヤツは内申下げるから、そのつもりで!」

 ええぇー、ほとんど脅しじゃねえかよ。


 学ランを着てるけど、あの教卓の横に立っている一条優は女子なんだ……。


 夢じゃない。今、俺の目に映る一条優は、間違いなく小学校の時に一緒だった、あの一条優だ!


 ……会いたかった、一条優。俺、ずっと言えなかった気持ちを一条優に伝えたくて――あ。


 明翔の茶髪の後ろ頭を見る。

 俺、今日、明翔の気持ちを受け入れるつもりで……俺も好きだって、言おうと思ってた。

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