第31話 神の御言葉
ネットという広大な海原で見付けた恋愛マスター。敬意を示して、神と呼ばせていただこう。
迷える子羊に、どうかご助言を。
「男に好きだって言い出す男の気持ちが分かりません。」
はっ。無意識にコメント欄に書き込んでいた。あ、俺、ネットは検索専門で書き込みなんか初めてした。だいたい、キーボードの打ち込みがたどたどしすぎる。
俺、今BLブログにコメントした! え、これ俺がBLに興味ある人だと思われる?!
ネットの書き込みは慎重にって、道徳で情報モラルだとかネットリテラシーだとか習ったのに、無意識に書き込むとは……。
慌てて、ブラウザの×を押してパソコンを閉じる。
閉じたらセーフ? 閉じても書き込みは消えない? どっち?
パソコンはなんか敷居が高い気がしてスマホから例のブログを探してみる。あ、あった。スマホでも見やすい。
もうコメントに返信されてる!
早えよ、さすが神!
「あなたは心から人を好きになったことがないのでしょう。
人を愛するスタートラインに立った彼の気持ちが分からないのは当然。
彼が男だから愛せないと思うなら、あなたはこの世のすべての女性を愛せるんですか?」
なんであれだけの文章で男に告られた男の書き込みだって理解できんの?!
すごすぎる! やっぱりこの人、神なんだ!
思い切って、この人になら……どうせ、俺がどこの誰かも知らない、リアルで繋がりようのない人物だ。
「初恋の責任なんて取れません。どうしたらいいですか」
抽象的すぎるかな……。
でも、ネットには個人情報を書き込んではいけませんって電話会社の人が言ってたし。気軽な書き込みが恐ろしい結果になる動画見せられたし。
お、もう返信が……
「
受け入れろとは言いません。それはあなたが決めることだから。
彼の真摯な思いがあなたに届くことを願っています。」
……色眼鏡? って何?
コピペして検索してみる。
「いろめがね。先入観にとらわれた物の見方。 偏見。」
あー……偏見は強い言葉だと思うけど、あるなあ。色眼鏡……。
俺の明翔に対する色眼鏡はふたつある気がする。
ひとつは、当然ながら明翔が男だということ。俺は、ライクは男ラブは女が好きだった。逆にライクで女を好きになったことはないかも。
だから、明翔が言ったように俺は明翔に対してリアクションがおかしくなってしまう。
もうひとつの色眼鏡がそうさせる。
明翔の顔が一条優にそっくりだということ。一条優にそっくりな明翔は、俺には女に見えてしまう。
頭では男だって理解してるのに。
ずっと会いたくて、でも会えなかった一条優に、言えなかった思いを伝えたい一条優に、なぜか明翔は似すぎてる。
ふたつの色眼鏡が、俺に明翔を他の人とは違い、変に見せる。
明翔は間違いなく男なのに、俺には明翔を男か女かで分けられなくしてしまうんだ。
でも、そんな色眼鏡を外したら。
去年はつまんなくてまともに参加すらしなかった体育大会が、今日はめちゃくちゃ楽しかった。高校入って、今日が一番楽しかった。たぶん、明翔がいたからだ。
明翔に好きだって言われて、めちゃくちゃびっくりした。でも、まず思ったのは男じゃんだった。色眼鏡なしの明翔は、黒岩くんに好きだって言われて、うれしいって言ってたのに。
……俺も、色眼鏡なしでもう1回明翔に言ってほしいかも……。
俺のことを好きになるだけでいいよ、って照れて赤くなりながら笑った明翔は、めっちゃくちゃかわいかった。
明翔はいつも元気で明るくて、でもたまーに怖いこと言い出すからなんかほっとけなくて、学校行事も全力でがんばってて、一緒にいてすごく楽しい。
そうか……色眼鏡なしに見る明翔は、俺も好きなんだ。
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