第17話 呂久村家のツンとデレ
制服姿の男子高校生ふたりがスーパーでお買い物って、結構周りの人から見られるな。まー悪いことしてるワケでもないから気にしないが。
「あ、あと猫缶買っとかないと」
「猫缶? 深月ん家ネコ飼ってんの?」
「うん。2匹」
「へー。何て名前?」
「ツンとデレ」
「2匹合わせてツンデレです! みたいな?」
「まさに! 思わずツンとデレって付けたくなるくらい性格が違うの」
友達の飼ってるネコに子猫が生まれたから、と2匹の手のひらに乗るくらいのネコがやって来たのは去年の秋だった。
たぶん、単身赴任の決まった母親が俺がちゃんと家に帰って来るようにネコを買ってきたんだと思う。その頃の俺は、高校生になって遊ぶ範囲が広がって家に帰るのが遅くなり、泊りで遊ぶことも多くなっていっていた。
毎日欠かさずネコ動画を見るほど小学生の頃から飼いたかったネコ、しかも一番好きなスコティッシュフォールド、さらに2匹も!
俺は友達と疎遠になるほどネコに夢中になった。
8階建てのマンションの204号室が俺の家だ。
鍵を開け、ドアを開けるとナア、とデレがお出迎えしてくれる。珍しい長毛のスコティッシュフォールドだ。折れた耳が特徴。黄色っぽいトラ柄に近い毛色で、スコらしい人懐っこい性格で超かわいい。
「ただいまあ、デレー」
買い物袋を置いてデレを抱き上げる。モフモフの長毛が柔らかくて癒される。そして制服に毛が付いてこじゃれた模様を形成する。
「ぷっ。深月がデレてんじゃん」
う……つい、明翔の前だというのに普段通りデレに構ってしまった。
構ってほしがりだけど抱っこされるのは好きではないデレが俺の腕を抜け肩へと足を掛ける。明翔がデレの顔を見る。
「かっわいい! ぬいぐるみみたいだな!」
「甘えん坊でかわいいんだよ、デレは」
ツンとは違ってな。
穏やかで人が好きなデレは、明翔になでられると気持ち良さそうに目を閉じる。
「これはデレるわ! かわいいー」
廊下を歩きリビングに入ると、ベランダに続くガラス戸にもたれかかったツンがこちらを一瞥する。
もー、ツンはかわいくねえなあ。
ツンもデレと同じスコだが、白い毛が多く高級感がある。その気高い見た目に違わずプライド高く気の強い孤高の美猫がツンだ。人に媚びへつらうことなどしない。
「何この子! 座ってんの? ネコってこんなおっさんみたいな座り方するんだ?」
「スコはそういう座り方する子も多いんだよ」
「スコ?」
明翔はネコに詳しくねえみたいだな。ツンの方へと歩いて行く。
俺はデレをくっ付けたまま買い物袋を台所へと持って行く。
「へえ、ペルシャ猫みたいだな。貴婦人が飼ってそう」
「キレイだろ、ツン」
「キレイ! かわいいな、ツンー」
「ん?」
ツンはキレイでかっこいいがかわいいって言葉が出てくるようなネコではない。
抱っこしようとしたら、キシャー! と威嚇してくる。
ツンがガラス戸にいない。あれ? と見回して驚いた。
あぐらをかいた明翔の足の上にツンが優雅に寝そべり、されるがままになでられている。
「え! ツンが抱っこされてる!」
思わず明翔に駆け寄ると、邪魔するな! って勢いでツンがキシャー! と威嚇してくる。
「なんでだよ! お前のご主人様は俺だろーが!」
「あはは! ツンは深月に懐いてねえの?」
「いや、俺にってか誰にも懐かねえんだよ、ツンは。ツンが抱っこされてんの初めて見た!」
「へー、俺にだけ懐くとか超かわいいじゃん、ツン」
ツンの白い毛を愛しそうになでる明翔を見て、お前が言うな、と思ってしまった。
誰にでも懐くくせに……お前にもそんな気持ちがあるなら、誰にでも懐いてんじゃねーよ。
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