第16話 高崎 明翔の食事情

 ボール片付けたりがあったせいで、休み時間が残り少ない。急いで着替えないと女子が入って来る。男子の着替えは教室である。


 高崎明翔が体操服の上を脱ぎ、上半身が裸になる。下にシャツ着ない派か。

 そのままワイシャツを羽織った。


「明翔っていい筋肉してるよなー。俺毎日筋トレがんばっててこの体なんだけど。どんなトレーニングしてんの?」

「何もしてないよ。俺筋肉つきやすすぎて困ってんだよ。野球やってた時なんかボディビルダー目指してんの? って言われるくらいでさ」

「野球で? もしかして、筋肉落としてんの?」

 今の明翔がボディビルダーを目指してるようには見えない。ちょうどいい細マッチョだ。


「そうそう。やっと脱げるくらいに落ちたかな」

「どこで脱ぐ気じゃい」

「そりゃ深月とふたりきりになった時だよ」

「やめんか! そういう冗談は言うもんじゃありません!」

 コイツはもう! 一条優そっくりな顔して笑いながら何を言い出すか分かんねえんだから!


「あー、腹減った」

「明翔って1日トータルどんだけ食ってんの?」

「どんだけだろ? 朝3杯米食って、休み時間にパスタとか食って、昼メシ食って、帰りにハンバーガー食って、晩メシ作りながらお菓子食って、晩メシ食って夜食食って……7食食ってるわ」

「すっげー摂取カロリー!」

「そのせいで筋肉つきやすいんかな?」


「て言うか、明翔がメシ作ってんの?」

「そうそう。うち今母親とふたり暮らしだからさ」

「かーちゃん帰り遅いの?」

「おっそい。下手したら12時過ぎて帰って来る。完全に冷めてるっつの」

「へー。メシ作って待っててやるなんて優しい息子だねえ」

「だろ。深月はかーちゃんが作って待ってくれてんの?」

「いんや。去年の秋くらいから単身赴任してて、俺今ひとり暮らしなんだよね」


 脱いだ体操服を袋に入れる。チャイムが鳴る前に着替え終わったな。

「メシどうしてんの?」

「帰りにコンビニで買ってる」

「毎日コンビニ弁当?」

「そうそう。飽きたらルート変えてコンビニ変えてる」

「マジかよ。金かかるな、深月」

「明翔に言われたくねーわ。お前の方が金かかってるだろ、絶対」


「毎日コンビニ弁当じゃ味気ねえだろ。俺が作りに行ってあげる」

「へ?」

 笑顔の明翔に間の抜けた返事をしてしまった。

「俺もひとりで食うより深月と一緒に食いたいし」

 明翔はシェアしたがりだもんな。


 まーいっか。俺はひとりで食うのも別に寂しくねえけど、特に断る理由もない。

「いいけど、俺ん家食材ねえよ」

「買い物行く金持ってんの?」

「金はある」

「じゃあ、帰りに買い物していけばいいじゃん」


 はい、けってーい! と明翔が前を向いて座ったと同時にチャイムが鳴り、女子たちが入って来る。

 え、てか明翔も食べるのに俺が金出すの? 俺の所持金でこのモンスターが満足するだけの食材が買えるだろうか。

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