第15話 黒岩くんと体育
今日の体育はバスケである。渡り廊下を渡り体育館に入るとすぐにチャイムが鳴った。
俺、
「そーいや、もうすぐテストなー」
「うわあ、楽しい体育に暗い話題やめよーや、
「テスト、キライなんだ?」
「明翔はテスト好きなのお?」
テテッと小柄な
「俺テスト好きだよ。めっちゃヤマ張って、2割くらい完全に勉強しないで勝負すんの」
「危険な勝負すんなー」
「完全に勉強しないの? 8割勉強するなら後2割くらいサラッとやっておけばいいのに」
「それじゃあ、おもしろくねーんだよ。俺にもうちょっと度胸があるかこの学校がもうちょいレベル低くて点全然取れなくても進級できるなら、勉強半分全然半分で勝負したいんだけどさー」
俺は奇跡的に合格できたレベルだが、この聖天坂高校は全体の半分くらいが4年制大学に行くそこそこの公立高校である。
「はーい、集合ー」
スーツ姿の体育教師がバスケットボールの入ったカゴの横で生徒たちを招集する。
「ふたりひと組でパス練習ねー」
ほお、ふたりひと組か。と、なれば。
「一緒にやろーぜ、明翔」
「おう! 本気でいくぞ、深月!」
「佐藤くん、僕と組もうよ!」
「うん、いいよっ」
こういう時、教師って生徒の人数が奇数か偶数か気にしねえよな。うちのクラスの男子は奇数のようだ。
黒髪で颯太ほどではないが小柄で細っこい気の弱そうなメガネ男子がポツンと立っている。
「パス練習なら3人でもできるよな。いい?」
明翔、俺らペアにあの細っこいもやしっ子を入れるつもりかな。
「いいよ」
明翔がもやしっ子に近付いていく。
「俺らと組もーよ。なんて名前だっけ」
笑顔の明翔に戸惑ったように、もやしっ子がオロオロとキョドる。
「あ、
「黒岩くんね。バスケ得意?」
そうには見えねえだろ。たまに空気読まねえ発言するよな、明翔って。
「僕、運動全般苦手で……」
「そうなんだ。大丈夫大丈夫、俺大得意だよ。よし、一緒にやろーぜ!」
ぷっと軽く吹いてしまった。よく分かんねえ理論だな。まーいっか。
3人でトライアングルを形取り、明翔が黒岩くんにかるーくパスを回す。
さすが大得意って言うだけあって、黒岩くんの能力に関わらずポイーンと胸元に来たボールを抱えれば取れるようなゆるいパスだ。
「ナイッスー」
明翔が笑って手を振る。黒岩くんもうれしそうに笑って、俺に体を向ける。ボンッと横投げされたボールが鋭角に床に当たりバウンドする。
どうせ投げられないだろうと思って距離は詰めてたけど予想以上だ。走って追い付き軽くジャンプしてボールを取る。
「うお! ムズイ球投げてんじゃねーよ!」
「ご、ごめん! 狙ったワケじゃないんだよ」
「それは分かってる」
「おー! よく追い付いたじゃん!」
明翔が手を叩いて喜んでいる。お前も走らせたろか。
「行け、明翔!」
「やると思った!」
ちっ、読まれてたか。難なくボールが明翔の手に収まる。
「黒岩くん、やっちゃってー。遠慮いらねえよー」
またふんわりと黒岩くんにパスが回る。
「はい!」
はいじゃねーだろ、黒岩くん。
まためいっぱい振りかぶって横投げしてくる。何なんだよ、その独特なフォーム!
「あはは! おもしろいな、黒岩くん!」
「食らえ、明翔!」
「甘い!」
「わあ! すごい! よくあんなボール取れるね!」
すっかり黒岩くんが楽しそうだ。
俺も、こんな夢中で体育したのなんか小学校以来くらいじゃなかろーか。
一生懸命やるのがなんかダサくて、いつの間にか手ぇ抜いて当たり前になってた。運動得意だからそれでも授業受ける程度は余裕だし。
明翔がいるとそうはいかない。たかが体育だが、本気でやるのっておもしれえな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます