第14話 トイレトイレトイレ
「トイレトイレトイレトイレ」
チャイムが鳴ったと同時に、トイレに走る。
授業開始10分くらいからトイレに行きたくなってもう限界が近かった。ふう、危ねえ。高2にもなってもらしてる場合じゃない。
教室に戻ると、俺の席に佐藤颯太が座りその隣に柳龍二が立っていて、俺の後ろの席の高崎明翔と談笑している。
「深月って幼稚園の時から切羽詰まるとトイレ連呼しながらトイレに行くクセあるよね。久々に聞いたよ」
「膀胱パンパンだったんだろーな」
「パンツならあるから、もらしても安心してくれていいよ、呂久村くん」
「柳ついにパンツ持ち歩くようになったのか」
「片時も離れたくないパンツってあるよね」
「ねえよ」
席を取られたから明翔の隣に立つ。
「俺小1の時にいとこの運動会の応援に行ってさ、トイレの場所が分かんなくて我慢し続けたことがあったわ」
「逆だろ明翔。場所が分かんねえなら早めにトイレ探しに行かねえと」
「すごいね、終わるまで我慢できたのっ?」
「無理。次がいとこの出番って時にいよいよ限界で、親にトイレって言ったらもう出てくるからひとりで行けって言われてさー」
「小1に対してそれはなかなか強気な親御さんだね。もらされても困るだろうに」
その時に柳がいればパンツ貸してもらえるけど、パンツ持ち歩いてるヤツなんてそうそういないわな。
「もう泣きそうになりながらもらしそうになってトイレ探してたらさ、深月みたいにトイレトイレ言いながら走ってる子がいたんだよ」
「小学生くらいなら結構いるだろうねっ」
「高校生では呂久村くんくらいなものだろうがね」
「うっせー。いらんこと言うな柳」
「この子明らかにトイレ行くよなと思ってついて行ったら、無事トイレにたどり着いてさ、事なきを得たワケよ」
「おー、良かったじゃん、明翔。トイレ連呼は小1を救うんだよ」
「小学生になると絶対にもらしたくないって妙なプライドが芽生えるよね」
「それ分かるなあ。もう保育園児じゃないんだから、僕はもらしたりしないって意地があるよね」
「柳は保育園だったのか。俺と颯太は幼稚園だわ。明翔は?」
「俺も幼稚園」
「うち共働きだったからね。みんなお母さん専業主婦だったの?」
「うちはオカン……ママは今も専業主婦だよ」
危なかったな、颯太。ほぼアウトだからふたりとも違和感を感じているようで、颯太の顔を見ている。
しょうがねえ、話を進めてやるとするか。
「俺ん家は母親がガンガン働いてて、延長保育でいっつも最後まで残ってたよ。俺父親いねーし、今もキャリアウーマン爆進してる」
「お! 俺も! 俺も父親いねえの。おっそろー」
うれしそうに明翔がハイタッチを求めてくる。お、明翔もか。
「まあ、じいちゃんが迎えに来てくれてたんだけどね。近くに住んでたから」
「へー、優しいじいちゃんだなあ」
へへ、と明翔が笑う。なるほど、実質じいちゃんに面倒みてもらってた感じか。じいちゃんっ子になるワケだな。
父親はいなくともじいちゃんがいて、運動会があれば応援に行くようないとこもいる。いいな、楽しそうだな、明翔。
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