第11話 柳 龍二はパンツ王子

 昼休み、食堂に弁当を買いに行く俺、高崎明翔、佐藤颯太になぜか取り巻きの女子を断って柳龍二がついてくる。


「僕、パンツが好きなんだ」

「俺もパンチラ好き」

「いや、履いてるパンツには興味ない」

「お前、何言ってんの?」

 マジで。本気の何言ってんのが出たわ。そして意外にもパンチラ好きなのか、明翔。女子みたいな顔して女子のパンツ見て喜んでるとか違和感。


 我が2年1組の学級委員長、柳龍二が真剣な顔で俺たちを見る。弁当やパンを食っていた俺たちもその気迫に押されて食う手を止める。

「もっと僕のことを知ってもらいたくて」

「まず知ってほしい情報がパンツなのか」

 大真面目にうなずく。イケメンメガネ王子と異名を持つのは知っていたが、パンツ王子でもあったのか。


「どんなパンツが好きなの?」

「大きめのトランクスがいい。派手な色でコントラストの効いたパンツが好きなんだ」

「自分のパンツかよ!」

「いや、自分のに関わらずパンツ」

「履きたいパンツじゃねーの? 大きめのトランクス」

「履きたい訳じゃない。僕自身はパンツは履かない主義だから。主に見る」

 主にって何だ、主にって。


「え……今もパンツ履いてねえの?」

 颯太がかわい子ぶるのを忘れて尋ねる。

「体育のある日は履いてる」

「毎日履いて来いよ。きったねえな。スラックス毎日洗濯してる訳じゃねー……だろうから、スラックスが汚れちゃうよ?」

 思い出したか、颯太。


「佐藤くんがそう言うなら、毎日履いてくるよ。佐藤くんも毎日パンツ履いてるってことだよね?」

「は? 履いてるけど」

「僕たち、おそろいだね」

「はあ?」

 それで言うなら俺もおそろいだな。ていうか、ほとんどの人間が毎日パンツ履いてると思うんだけど。


 イケメンメガネ王子ってしゃべるとこんなヤツだったのか。ただの見た目ヤンキーな優等生だと思ってた。

「柳ってなんで優等生なのに金髪なの?」

「ギャップだよ。データによると、女子はギャップに弱い。金髪なのにメガネ、金髪なのに優等生」

「そのメガネもギャップの演出って訳か」

「僕、視力両目とも2.0超えてるからね」


 ただ、女子が萌えるギャップってこんな分かりやすいのよりはヤンキーなのに子犬拾うとか、優等生なのにデカいバイク乗ってるとかじゃないだろうか。

 なんかズレとんな、このパンツ王子。


「やだー、下着ドロボーとか最悪ー」

「買ったばっかりのパンツだったのにー」

「パンツ? 取られたのかい?」

 隣で昼食を食べている女子ふたりに柳が声をかける。

 パンツセンサーが冴えとるな、柳。


「そうなの。うちの近所最近多いらしくって」

「失礼だが、母子家庭だったりする?」

「え! どうして分かったの?」

「女性物の洗濯物しかないベランダは狙われやすいんだ。男物のパンツを一緒に干すといいよ。僕のコレクションから持って来てあげようか」

「え! 柳くんのパンツを?!」

「大丈夫、一度も履いてないパンツがたくさんあるから」

 履けよ。パンツは履くために買えよ。


「とりあえず俺のパンツ持って帰って干しとく?」

 明翔がズボンに手を掛ける。

「そうしてくれるかい、高崎くん」

「え?! キャー!」

「脱ぐな! やめろ、明翔!」


 ベルトを外してチャックを下ろそうとする明翔の前に慌てて立ちはだかる。


「え? なんで深月が赤くなってんの?」

「うっせえ! いいからベルト締め直せ!」

「はーい」

 首をかしげて不思議がってるけど、普通にダメだろ、人前でパンツなんか見せちゃ!


「明翔のパンツなんかどうでもいいやっ」

「佐藤くん、かわいいー」

 大きなメロンパンにかぶりついた颯太に、女子が黄色い声を上げる。


 どうでもよくない! 他の男ならどうでもいいけど、一条優そっくりな顔でそういうことをするんじゃない!

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