第12話 男子高校生たちの恋バナ

円川えんかわ末行まつゆきが付き合い始めたらしいよっ」

「へー」

 休み時間である。俺と高崎たかさき明翔あすかの席の周りにテテッとやって来た小柄な佐藤さとう颯太そうたが苦々しい顔でかわい子ぶって言う。その後ろを背の高いやなぎ龍二りゅうじがついてくる。


 頬杖をつき、隣の席でほっぺをつつき合いイチャつく円川のぼると末行ありさを半目で見た。

 このクラス初のカップル誕生ですな。


「いいなー。俺も彼女ほしい」

「彼女?!」

 思わず明翔を見た。驚く俺に明翔はキョトン顔を返す。

 あ、なんか一瞬、女子が彼女ほしいって言ってる感覚になっちゃってびっくりした。


「そんなに驚くかい? 呂久村くん。僕も彼女がほしいよ」

「イケメンメガネ王子なんだから、お前が付き合おうって言えばいくらでも彼女できるんじゃねーの」

「みんな量産型女子高生に見えちゃって、ひとりにしぼれないんだよね」

「けっ。見た目通り軽薄なヤツだ。優等生のくせに」

「え?」

「なんでもないよ。早く彼女ができるといいねっ」

 任侠道に生きる颯太は、チャラついた男が大嫌いである。モテるために金髪にしてる柳のような男が。


「佐藤くんは彼女ほしくないのかい?」

「俺が愛する女はこの生涯にただひとりと決めている。一生をささげたい女しかいらない」

「すごい覚悟だね。カッコいいよ! さすが佐藤くんだ」

 柳がキラキラと目を輝かせている。何なんだ、柳龍二という男は。


「深月はどんな女子が好きなの?」

 明翔が笑顔で聞いてくる。女子ねえ……。

「束縛しなくて夜中にメール送って来なくてペアリング付けさせようとしなくて毎日会おうとしなくて一日中電話しようとしなくて授業中ずーっと俺のこと見て来なくてちょっと他の女子としゃべってるだけでキレて来なくて」

「なんかネガティブな条件ばっかだな、深月。俺好きなタイプを聞いたのに」

「深月モテるだけに女子が不安になっちゃうんだよねっ」

「へー、モテるんだ」


 背が高いというのはモテる重要な要素らしい。185センチの俺はたぶんこの2年1組でも一番背が高い。顔は平凡でも俺の背が高いから付き合いたいという女子は案外多い。


「明翔こそモテるだろ」

「キレイな顔してるもんねっ、かわい子ちゃんは」

「かわい子ちゃんやめろっての、ちびっ子」

 またやり合ってるよ、このふたりは。仲良しな、お前ら。


「明翔はどんな女子と付き合ってきたんだよ?」

「俺まだ付き合ったことないんだよね。だから彼女がほしいんだよ」

 幻想だな。彼女っていいものだろう、付き合うってラブラブで楽しいだろう、と夢を見ているな。覚悟しとけ、女子って自分の男だと思ったら態度豹変するからな。


「高崎くんでも失恋したことがあるのかい?」

「ないよ。俺失恋以前に恋したことがない」

「マジか!」


「分かるよ、明翔。ちょっといいなと思ったくらいでホイホイ恋になんて落ちねえのが男ってもんだ」

 颯太が席に座る明翔の肩にポンと手を置く。その手を取り颯太の体へと明翔が返す。

 颯太は<生涯ひとりの女>にこだわりすぎだ。実は颯太は惚れっぽい。だが、お前完全にアイツのこと好きなんだろって女子でも絶対に好きだとは認めない。


「ちょっといいなと思ったこともないなあ」

「マジで? すげえ、本物がいた」

 何の本物だよ、颯太。颯太が尊敬の眼差しで明翔を見る。何コイツら。


「だって、女子も俺のこと付き合う対象としては見れないって言うし」

「あー、顔がちょっと女子っぽいからかなっ?」

 ちょっとどころじゃなく、俺には完全に女子に見えてるぞ、今もまさに。

 不服そうに唇をとがらせる明翔がかわいい。


 柳が腕を組んでうんうんとうなずく。

「たしかに、高崎くんよりかわいい女子ってそうそういないね。女子からすれば自分よりかわいい彼氏はイヤかもしれない」

「はあ、俺の顔が美しすぎるから」

「嫌味なため息な、明翔」


 気の毒に、なかなか彼女はできなさそうだな。


 チャイムが鳴る。わずか10分の休み時間をくだらない話して無駄にしたもんだ。

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