第10話 親友の高崎 明翔
無理やり明翔とヤンキーの間に体を押し込み、俺より背の低い明翔の前に壁となる。俺と変わらない身長のヤンキーが顔を近付けて来てヘラヘラと笑う。
「何、お前の女なの?」
「友達だよ」
「お友達かよー。ゴッ」
「いてっ」
颯太がヤンキーの後ろから飛び蹴りを食らわしたものだから、ヤンキーの頭突きを食らってしまった。
「いてーよ、颯太!」
「あはは! ごめんね、深月」
颯太が悪びれもせずかわいく言いながらヤンキーの腹を蹴る。まったく……まあ、助かったからヨシとしよう。
振り返ると明翔が俺を見上げている。
「明翔、腕大丈夫か?」
「うん……深月こそ、デコ大丈夫?」
「大丈夫」
ホッと息をつく。良かった、明翔が無事で。
明翔の手が伸びてきて、俺の前髪を上げ、じーっと顔を見る。え! 距離近!
「デコは赤くなってるけど、傷にはなってなさそうだね。……てゆーか深月、顔全体赤くない?」
お前の顔が近いせいだよ! その一条優そっくりな顔が!
「よし、片付いたかなっ。ゲーセン行こ!」
「あ! 僕も一緒に行っていい? 佐藤くん」
ヤンキーを踏みつけこちらに歩いて来る颯太に柳が駆け寄る。
「別にいいけど」
「ありがとう! あ、君たち悪いけどここで解散ね。気を付けて帰ってね」
イケメンメガネ王子こと柳龍二が笑顔で手を振ると、女子たちがええーと不満の声を上げながらも散り散りになる。
「クレーンゲームで勝負だよ! 明翔!」
「いいよー、颯太。デカいの取った方が勝ちにする?」
「うん、それで!」
「じゃあ、僕大きい景品探してくるね、佐藤くん!」
ゲームセンターに入るなり今度は颯太VS明翔の戦いが幕を開ける。勝負事好きだからなあ、颯太は。
俺は特に興味もなく適当に見ていると、なんと大好きなファンタジーアニメ「世紀末フェアリーズワンダホー」のヒロイン、赤い衣装の精霊使いウイウイのフィギュアを発見した。
いろんなアニメのフィギュアがまるで売れ残りのワゴンセールのように入れられているクレーンゲームだ。
「なんか欲しいのでもあるの?」
ガラスにへばりついて見てる俺に明翔が気付いた。
「あれ! あの赤い箱!」
「何あれ」
と言いながら、明翔が100円玉を入れる。
「あー、ムズイな、あの位置」
たしかに、俺よく見つけたなってくらい、奥だし上に違うアニメのフィギュアが乗っかっている。
だが、明翔はかなりうまい。2回ほど両替に行ったが、徐々に徐々にウイウイが獲得口に近付いてくる。
「行けそう! 行けそう! 明翔! すげえ! 行ける! 行けるぞ!」
最後は獲得口にはみ出た箱をアームで押してバランスを崩し、ついにウイウイが落ちた!
「深月、これすっげー好きなんだな。こんなテンションたっけー深月初めて見たよ」
明翔が拾って、笑いながら俺に手渡してくれる。
「え? 明翔が取ったのにいいの?」
「さっき俺のこと守ろうとしてくれたお礼。うれしかったよ」
ニッコリ笑った明翔に目が釘付けになった。なんっちゅー、素直な礼の言葉……。
「ねえ、俺のことお前の女かって聞かれた時、なんで男だって言わずに友達だって言ったの?」
「え?」
あ、言われてみればそうだな。なんでだろう? 男だって返事が思い浮かばなかった。
「まさかまだ俺のこと女だと思ってないよね? 脱ごうか?」
真顔でズボンに手を掛ける。コイツ本気で脱ぐ気だ!
「分かってる! ご心配なく! 明翔は男だ!」
「かなりの大物が取れたの? 深月大声で叫んでたけど」
小さい体ででっかいぬいぐるみを抱えてテテッと颯太が駆けてくる。その後ろを柳もついてくる。
「これだよ」
「なんだ、ちっちぇえじゃん。この勝負、俺の勝ちだね! 明翔!」
「くっそー、負けたかあ」
「あ、デカさ勝負なんだったな。すっかり忘れてた。ごめん、明翔」
「いいってことよ! 親友の喜ぶ顔が見れて良かったよ」
親友……。おお、ボーダーレスな明翔の中での特別感あって、なんかすっげーうれしい。
「ありがとよ! 親友!」
「おうよ! 親友!」
ガシッと腕を組み合い、俺たちは親友になった。
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