第4話 俺っ娘美少女? 高崎 明翔

 ゴールデンウィークも明けてすぐ、5時間目のホームルームの時間に担任化学教師が白いタンクトップ姿で

「席替えをしまーす! 毎月席替えをするので、みんな周りの人に積極的に話しかけて仲良しクラスを目指しましょうー」

 と元気いっぱいに告げた。


 げ。毎月席替えとか、超めんどくせ。なんだそのクラス仲良し大作戦は。

 高2にもなってそんな友達100人作るんだーって気合い入ってるようなヤツいねーよ。


 席替えが終わると同時にチャイムが鳴った。

 まだ机運んでるヤツもいるのに、担任は教室を出て行く。マイペースだな、あの教師。


 前の席になったヤツがくるっと振り返った。

「……あ!」

 一条いちじょうゆう――じゃなかった、高崎たかさき明翔あすかだ!

 うわ、まさか一条優のそっくりさんの後ろの席になるなんて。


 高崎明翔はニッコリ笑った。うわ、かわいい……さすがは一条優のそっくりさん。顔面の破壊力やべえ。


「ねえ、君、名前なんて言うの? 俺、高崎明翔!」

「俺?! あ、ごめん、呂久村ろくむら深月みづき

 そっか、スラックス履いてるくらいだから、俺っ娘でも不思議ねえか。

「深月ね。よろしく!」

「え、よろ……よろしく」


 え、いきなり深月とか呼び捨てしてくんの? 俺はなんて呼べばいいんだよ?

「ああ、俺のことも明翔でいいよ、深月」

 えらい察しがいいらしい。俺の疑問を秒で解消してくれた。

「お……おう、あ……すか」

 言いにく! 言いにくいわ! 一条優と同じような顔してる相手に、いきなり明翔とか呼べねえわ!


「なあ、深月」

「え、何? あ……明翔」

 聞こえるか聞こえないかくらいの声になっちゃったな。てか、たぶん聞こえてねえ。


「何か食うもんねえ?」

「は?!」

「俺、腹減っちゃってさー」

「え、5時間目終わったとこなんだけど。昼メシ食ってねえの?」

「食った。けどもう腹からなくなった」

「はえーな!」


 明翔の隣の席へとまだ机を運んでいる女生徒に

「ねえ、君なんて名前? ううん、下の名前。莉羅りらね。ねえ莉羅、食うもんねえ?」

 と俺に対してと同じように話しかけている。


「食べてる場合じゃないよ。次体育だから急いで着替えなきゃ」

 と体操服袋を持って慌ただしく女生徒が教室を出て行く。

「あ、次体育か」

「あー、腹が減って力が出ねえ」


 女子は女子更衣室、男子は教室で着替えである。男子の着替えはのぞき放題ってか。


 おもむろに明翔がシャツのボタンを外していく。

 え?! いくら俺っ娘でも、ここで着替えんの?!


「ちょ待っ……明翔、待て!」

「何?」


 明翔が俺の顔を見た時にはすでに、明翔はシャツを脱いでいた。

 鍛えられた胸筋があらわになる。


「え……男?!」

「は?!」

 驚く俺に驚く明翔。爆笑する周りの男ども。


「呂久村、この1カ月明翔のこと女だと思ってたんだ?」

「分かる分かる、俺もてっきりアスカって名前の女だと思ってた」


 男かよ! 名前が違う時点で分かってたけど、やっぱり絶対一条優じゃねえな。いや、分かってたんだけど。


 え、じゃあ明翔のヤツ、男なのに女子にもあんな気安く下の名前聞いてたの?

 女子が女子に聞いてると思って見てたから違和感なかったけど、この男すげーな!


 男相手でも女相手でも何ら態度が変わらない。すげえ、女はめんどくさいって思っちゃう俺には考えらんねーわ。

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