第3話 佐藤 颯太をショタ言うなかれ
昼休みのチャイムが鳴ると、すぐさまテテッと佐藤颯太がやって来た。
「深月! 一緒にごはん食べようよ!」
「おうよ。ここで?」
「うーん。もっと人気のない所がいいなっ」
俺をどこに連れてって何をする気だ。
連れ立って教室を出る俺たちに、
「かっわいい、あの子」
「佐藤くんでしょー、分かるー」
「超ショタ」
と女子達の視線が注がれる。
へー、さっそく話題を振りまいてますなあ、颯太よ。
「あ、屋上だって。屋上なら人がいないかなっ」
「えー、階段めんどい」
「いいから!」
はいはい、仰せのままに。
まだ4月の初めだってのに、今日は天気がいいから屋上に出ると暑いくらいだ。
「よし、誰もいないかなっ」
「いねーんじゃね。あちーし」
「あちーなマジこれ。やべー、4月でこの暑さとか太陽ぶっ殺してえ」
「お前が死ぬわ」
バカなことを言ってんじゃねえよ。聡明な颯太にしては珍しいが、すぐぶっ殺すとか言いだすあたりは颯太っぽい。
「俺のメロンパン買ってあるんだろーな」
「はいはい。金は寄越せよ」
「あいよ」
「あい、毎度あり」
かわいい顔でデカいメロンパンにかぶりつく様はまさに女子生徒たちが言ってたように幼い少年、ショタだ。
「なあ、ショタって何だ? 教室出る時に俺のことショタだっつってなかったか」
「え? ……知らねえな。正太郎とかじゃねーの」
「正太郎って何だよ。意味分かんねーな、深月」
意味分からん方がお前のためだよ、颯太。
「深月も一緒にやろーぜ、この任侠ゲーム。超スカッとするしストーリーが秀逸でよー」
「……俺、任侠に1ミリも興味持てねえんだわ。なあ、颯太、何そのスマホ画面のバッキバキぶり」
「昨夜アニキが酔って暴れて、押さえつけようとしたアネキが足蹴られてイラッときて俺のスマホ投げやがってよー」
「ヤンキー一家の日常だな。アニメで見たいわ」
「いらねーよ。他人事だと思いやがって」
佐藤颯太は苦労人だと思う。
両親は元ヤン、3人いる兄、ひとりの姉みんなヤンキーの末っ子。しかも兄と姉はみんな年子なのに、颯太だけ年が離れている。
幼稚園で出会った時、すでに颯太はヤンキーデビュー済だった。
周りの子供たちよりも3まわりくらい大きく体格に恵まれた颯太は先生に逆らい、弱い者いじめをするガキ大将をぶっ飛ばし、障害を抱える子の面倒を積極的に見、年少さんの時点でさくらようちえんのトップに立った。
そのまま小学校でも入学早々当時の6年生たちを軒並み叩き潰し、力で桜が丘小学校をシメた。
コイツならどこまでも上り詰めていくだろうと、その先を俺も見てみたいと羨望の眼差しを送っていた矢先、悲劇が起きた。
早すぎた成長期が唐突に終わりを告げたのだ。
身長が155センチでピタリと止まった。
それでも周りの子供たちが追い付いてくる程度だったが、中学に上がればどんどん抜かされていくのは兄達の成長を見ていた颯太には明白。
さらに悪いことには、俺たちの出身中学、桜第三中学校はヤンキーが多いで有名な治安の悪い中学だった。体の小さいヤンキーなんて悲惨な中学生活になるだろう。
そこで颯太は、中学入学を機に180度方向転換して舵を切った。
兄や姉にかわいいかわいいと言われるのがコンプレックスだったが、「かわいい」に全振りしたのだ。
同じ小学校出身のヤツらも、まさか気合いの入ったドヤンキーファッションに金髪でグラサンを愛用していた颯太が黒髪でクリクリの目が愛らしい制服をきちっと着こなしているかわいい少年に変身しているとは気付かなかった。
佐藤颯太というオーソドックスな名前も良かったんだろう。俺の名前じゃさすがにバレる。
気付いたのは、颯太に憧れコバンザメのようにくっ付いていたこの俺、呂久村深月だけだった。
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