第2話 一条 優かと思ったら
「この2年1組のみなさんが仲良くなるために、これから自己紹介をしてもらいます!」
元気良くめんどくせーことを言う担任教師は30代くらいだろうか。メガネを掛けた男性化学教師なのにさわやかなタックトップ姿で無駄に筋肉を見せつけている。張り切っとんな。
知らねえヤツばかりだからこそ自己紹介をちゃんと聞くべきなのだろうが、知らねえヤツの自己紹介なんて興味が持てないのは何だろう。
「はい、次ー」
小柄な男子生徒が前に出て、笑顔を見せる。学ランの制服から大きなフードを出して「かわいい」を強引に演出している。えー、かわいい! と女生徒の声が聞こえる。
「
ペコリと頭を下げる。おおー、と訳の分からん感嘆が漏れ聞こえる。
席に戻りしな、颯太がニカッと意味深に笑いかけてくる。はいはい、言いませんよ、秘密厳守ですね、わきまえてますよー。
またボーッとしてたら、ひとりの美少女が前に出た。明るいアッシュグレーの髪色で、えりあし長めのマッシュヘアが中性的な美少女だ。
あれは……一条優じゃん!
絶対、一条優だ! 小学校の6年間、一条優を見続けていた俺には分かる! 一条優が高校生になったらこうなってるはずだ!
……あれ? スカートじゃなくて、スラックス?
ああ、ジェンダーレスとかで、女子でも希望すればスラックス可だって説明会で言ってたな。
なるほど、小学生の頃からボーイッシュなところのあった一条優がスラックスを希望したってことか。
しかし、えらい身長伸びとんな。小学生の頃からみんなより頭ひとつ抜けてたけど、あの頃の勢いそのままに成長したのか、一条優。
「
高崎明翔?! って、誰だ!
え?! 一条優じゃねーの?!
この俺が一条優と他人を間違えるなんて考えられねえんだけど?!
小学校の入学式で隣のクラスだった一条優を初めて見た時、俺の中で衝撃が走った。それはそれは大きな衝撃。釘バットで無防備なすねをバアシッといかれたような衝撃。
それからというもの、俺はクラスの垣根を超えたイベントでは常に一条優の姿を探す6年間を過ごした。
6年生になった頃には、一条優の後ろ姿を見るだけで動悸が激しくなって病気を疑った。
颯太に相談したら、
「あ? んなもん、恋だろ、恋」
と投げ捨てるように言われた。
そうかこれが恋ならば、中学生になったら告白しよう、と心に決めた。
中学校に上がったら告るんだから、と今はまだ勇気が出ないことを一大決心のせいにした俺は、卒業式でも一条優を見るだけだった。
中学校の入学式に、一条優はいなかった。進学を機に引っ越して校区が変わってしまったらしい。
一大決心は果たされることもなく、俺の初恋は強制終了となった。
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