BLはファンタジーだって神が言うから

ミケ ユーリ

第1話 呂久村 深月、高校2年生に進級

 4月。俺、呂久村ろくむら 深月みづき聖天坂しょうてんざか高校の2年生になった。

 2年1組か……お、颯太そうたと同じクラスか。てか、颯太しか知ってる男いねえ。まーいっか、ひとりでも知ってる男がいれば気が楽だ。


「深月! また同じクラスだねー、よろしくね!」

 とモブ女生徒ゆりが背中を叩いてくる。

「おー、よろしく」

「あの、同じクラスになった記念に、どっか行かない? 今日は終わるのも早いし、お昼ごはんでもどうかなあって」


 どんな記念だよ。その記念を認めると何かと記念日設けられそうなんだけど。気が付いたら「交際1カ月記念日ね♡」とか言われそうなんだけど。


「わりー。俺今日腹の調子超悪いから食える気しねえ」

「え、腹が?」

「ゆり! これ超良かった! 神! まさに神! てか受けが尊すぎて泣いた!」

「は? 受け?」

 名も知らぬモブ女生徒が一冊の漫画単行本を手にゆりの元へ走って来る。でけー単行本だな。


「ちょっ……ちょっと、やめてよ!」

 ゆりが慌てている様子なのが興味を引いた。

「何、この漫画?」

 名も知らぬモブ女生徒の手から単行本を奪う。表紙にはえっらい繊細な線で泣いているメガネ男子の涙を舐め取るヤクザみたいな男が描かれている。


「何この表紙。内容が全く想像つかねえんだけど。少年漫画?」

「BLだよ、BL!」

「びーえる?」

「ボーイズラブ」

「ボーイズ? ああ、おっさんずラブ?」

「そうそう」

「やめて! 解説しないの!」

 ゆりが俺の手から単行本を取り返そうと跳ねているが、この小柄な女生徒には届くまい。


 パラパラと中身を見る。

 ……なんか、グラサンヤクザが船の上でメガネ男子を押し倒してんだけど。

 はだけたシャツから胸に口を付けていたヤクザがグラサンを外しながら笑ってメガネ男子を見下ろしてんだけど。

 スーツを脱ぎ始めたヤクザに真っ赤になっている涙目のメガネ男子が「僕をあなただけのモノにしてください」とか言ってんだけど……。


「どういう世界観だよ」

 ゆりに本を返す。

「今、女子の間で流行ってるの! だから持ってるだけ!」

「超おもしろかった! ゆりが推してるBL全部おもしろい!」

「へー、ずいぶんいろいろ流行ってんだ?」

「そ……そうよ! 流行ってるから持ってるだけ!」


 真っ赤な顔してそれは無理があるぞ、ゆり。

 BLねえ。男同士が乳くりあってんの見て何が楽しいんだ。


 かと言って、俺はもう女と付き合いたいとも思わない。

 女子高生特有のノリって苦手。

 さらには俺好みのサバサバ系かと思いきや、付き合いだした途端、粘着系に大変身する女の多いこと多いこと。


 夜中にこっちが眠れなくなるような情緒不安定な上になげーメッセージ送って来たり、10分に1回は電話して! と実行不可能な約束を押し付けて来たり、学校にまでペアリング付けて来いって強要したり。同じ学校なんだから校則くらい知ってるだろって言いたくなる。


 日直でペアになった女子としゃべってるだけで「私のこともう好きじゃないんだ」って泣き出す女しかり、毎日毎日「私のこと好き?」って確認してくる女しかり。

 好きじゃねえから毎日毎日言い訳を考えて話をそらす俺の労力を考えろっての。


 一条いちじょうゆうを超える女になんて、俺もう一生出会えねえのかもしんねーなあ。

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