第37話 好みの分かれるゴーメンガースト
『ゴーメンガースト』は、子どもの頃に名前だけは知っていたので、読んでみたかった本でした。しかし当時の書店には、この本は置いていなかった記憶があります(単に注意して見てなかっただけかもしれないけど)。最近、ネ友からこのシリーズが面白かったという話があり、また、C・S・ルイスがこの本を評価しているエッセイを読んで、是非読んでみようと思って借りて読みました(古本にはなかった……)。
最初に感じたこと。
よ、読みにくい!
一文が長いし修飾語がゴテゴテしてるし、何を言いたいのか把握するまでが大変でした。それでも『タイタス・グローン』『ゴーメンガースト』『タイタス・アローン』は、なんとか読了しました。このシリーズ、まだ『タイタス・アウェイク』というのがあるらしいんですが、未読です(とても読む気力がない…… 笑)
それはそれとして、この『ゴーメンガースト』シリーズは、読み応えがある素晴らしい作品でした。読みにくいのは仕方ないことですからあきらめてます。翻訳モノって、たいてい、読みにくいものです。それよりこれはすごい幻想文学ですよ! 個性際立つ伯爵家と使用人の面々。石の迷宮ゴーメンガースト城を舞台に、すみれ色の瞳を持つタイタス・グローンの誕生とともにはじまるスティアパイクの暗躍ぶりがスリリング。クセの強いキャラのオンパレード、類を見ない狂気と幻想のほとばしる文体。まるでこってりしたフレンチを食べてるみたい。
これはふつうのファンタジーではありません。こういうのと同じテイストのものをあげてみよ、と言われたら、わたしはきっと、『高野聖』(泉鏡花)を出すと思います。『高野聖』は、ここまで絢爛たる暗鬱な雰囲気はないのですが、ホラーでゴシックなテイストがよく似ている。
さて、わたしが第一作『タイタス・グローン』で魅力を感じたのは、『高野聖』での幻想的な雰囲気と似ているから、というのもありますが、キャラクターが秀逸なところですね。言うまでもなくスティアパイクのことです。おバカなふたごに取り入り、空手形で自分の味方にしてしまう。スティアパイクの陰謀は、明るみに出るのだろうか? おねーさんのフューシャは、邪悪なスティアパイクに陥落するのか?
みんなエゴイスティックで、自分のことしか考えてないのに、ふしぎと反発は感じません。なぜなのでしょうか。人間にありがちなエゴイスティックな部分を、正直に書いているからでしょうか。どのキャラもむちゃくちゃ濃くてダークだけど、そういう面は、自分を直視すれば心の中にきっとあるのです。
第二作『ゴーメンガースト』で、タイタスとスティアパイクは対決することになります。そして、スティアパイクは意外な形でタイタスに敗北することになります。
第三作『タイタス・アローン』でこのシリーズが完結したようです。このシリーズは、『SFの書き方』(アメリカSF作家協会)によると、SFであるという分類がされています。もちろんSFぽい表現が出てくることはたしかでしたが、むしろこの話はスーパー・フィクションだと言いたいところがあります。第三作『タイタス・アローン』で科学者とからむタイタスを見ていると、ゴーメンガーストはゆがめられた現実の姿にほかならないのではないか、という気持ちにもなります。
ファンタジーには個性はいらない、という意見があることは知ってますし、ある程度まではそれは説得力もあるでしょうが、このシリーズにおいては、重厚な世界観とひねくれたユーモアなどとともに、登場人物の際だったキャラクター性が注目されます。描写が濃厚すぎてげんなりすることもたしかです。わたしも、この文体には困ってしまいました。訳者自身の文体も、わかりにくいのが身上だと思ってる部分があるようです。まったく、この翻訳、なんとかなりませんかね。
最初にこの『ゴーメンガースト』シリーズを読んだ時には、太古の伝統を忠実に守る、退屈な人たちの話かと思っていたら、ラスト近くになったら科学者が出てくるからビックリしました。それまでは火事があったり伯爵の死があったりと、陰鬱なストーリー展開が続いていましたが、せいぜい中世ぐらいの時代だろうと思っていたんです。
幻想文学のカタマリの『ゴーメンガースト』シリーズ。好みは分かれますが、わたしは好きですね。読み応えがあって満足しました。
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