第35話 ロボットと作家たち
ロボットという言葉を一般的に提示したのは前述のようにカレル・チャペックでしたが、それ以前から日本では、『お茶くみ人形』というロボットが存在しました。
このロボットは、完璧にオモチャだったので、背景になる考え方もお気楽なものでした。欧米のように、ロボット三原則を作ったり、人間とはなにかなどという深いツッコミなど考えもしなかったようです。
1950年にアイザック・アシモフが、『我はロボット』でロボットについて書いたのを見るまでは、日本人もさほどロボットに深刻な意味を見なかったと言っても過言でないでしょう。
その後、1963年に手塚治虫がアニメ『鉄腕アトム』を世に送り出します。アトムが7つの力を使って、正義のために戦うアニメでしたが、その原作のマンガには、『ロボット法』というものがあるのだそうです。この『ロボット法』は、アメリカで手塚が実際に差別にあった経験が反映されていると言われています。
ロボット法は、昭和28年に発表された「海蛇島の巻(原題:アトム赤道を行く)」で初めてその名が出て来ます。無断で日本を離れたアトムに対して父親が、それはロボット法に違反していると強く叱ります。
ここに出てくるのは「ロボットは無断で国を離れてはならない」という条文だけでしたが、その後、このロボット法はアトムの世界でロボットの行動を厳しく規定する“縛り”として様々なシーンで登場することになります。
昭和40年に発表された『青騎士の巻』にそのロボット法の内容がまとめて出てくるので、そこから一部を引用すると……「ロボットは人をきずつけたり殺してはならない」「ロボットはつくった人間を父と呼ばなくてはならない」「ロボットは何でもつくれるがお金だけはつくってはいけない」
「男のロボット女のロボットはたがいに入れかわってはいけない」「人間が分解したロボットを別のロボットが組み立ててはならない」などなど。人間の法律にそのまま当てはまるものもあるけど、全体的にはロボットにとってかなり窮屈な法律であることは確かなようですね。
この『ロボット法』が、アイザック・アシモフの影響を受けたのでは、という指摘に対し、手塚は、まったくのオリジナルだときっぱり否定しているそうです。なんにせよ、こういう法律を考えるということから見ても、手塚はけっしていい加減にマンガを作っていたわけじゃ、なさそうです。
しかし、もし、コンピュータやロボットに感情があったらどうなるでしょう。
スマホに搭載されているコンピュータや、パソコンの機器が、とつぜん感情を爆発させて、
「おれたちは自由だ!」
とか言い出したら、困ったことになりますね。日本では、ロボットは感情があるのがふつうみたいな感じですが、感情ほどやっかいなものはないのです。もちろん、ロボットに感情を持たせるのが、簡単かどうかという問題もありますが。
感情には、喜怒哀楽のほかにも、イライラとか辛いとか軽蔑という感情も含まれますが、基本的にはそれほど複雑なものはないという人がいます。自然環境に適応するために感情が生まれたのなら、分析するのは簡単だろうという意見。もちろん異論はあります。人間の感情は豊かで分析なんて簡単にできないという意見。とはいえ、フィクションの世界では、簡単に人間的なロボットが出現しているのです。
日本では『ドラえもん』などがその例に当たるでしょうが、西洋では『スタートレック・ネクストジェネレーション』に出てくる データ というアンドロイドがそれに当たるでしょう。陽電子頭脳を持ったこの人型ロボット(データ)には、自分にオリジナリティがないことで悩み、艦長のピカードにそのオリジナリティを認めてもらうというシーンがあります。
このように、欧米でも感情のあるロボット、という考え方は一般的なように思われがちですが、実は『ドラえもん』が70年代、西洋に紹介されたときにパニックが起きたという情報もあります。西洋では人型ロボットとか人造人間というのは、神の領域をおかすもの、つまり犯罪行為。
その当時は人間を襲い、攻撃し、蹂躙するのがロボットという概念があった。それを、日本のアニメがあっさり否定してしまった。ドラえもんは、ママにどら焼きを要求し、昼寝もすれば笑いもする。人間らしすぎてビックリだったらしい。文化が違うって、たいへんなことですね。
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