第29話 スターウォーズとキャラクター
今回は、キャラクターの変遷についてお話しします。
50年代から70年代にかけて、アメリカ・イギリスのファンタジー系児童小説には、個性的なキャラクターは見当たらなかったようです。
50年代、60年代のC.S.ルイスのエッセイ『別世界にて』では、一流のSFやファンタジーには個性的なキャラクターなど必要ないという説を唱えています。
彼によると、『不思議の国のアリス』も『ガリバー旅行記』も、ごく平凡な人間が主人公になっているからこそ、異世界の異様さが際立って感じられるらしいのです。性格の描写は、腕のいい作家が別世界を作るときには、いつも平凡な人間が主人公になっている、なんて書いてあった記憶があります。
SFやファンタジーには個性的なキャラクターはいらない、もしくは、話の都合で性格が変わってしまうのはよくあることだという風潮は、70年代後半まで続きました。これに関してちょっとした小咄めいたものがあります。
映画『スターウォーズ』が撮影開始になったとき、名優アレック・ギネスは、この作品をSFではなく、人間ドラマだと思っていました。いろんな異星人が出てくるけれど、最後に魔王をやっつけるまでの、主人公の成長物語である、と考えていたらしい。
そこで、大根役者で売れてなかったマーク・ハミル(主役のルーク・スカイウォーカーを演じていました)に対して、懇切丁寧に演技上の助言をし、キャラクターのつかみ方とか、感情の込め方とかいったことを、基本から教えたらしいのです(ああ、うらやましい!)。
ところが、撮影がどんどん進んで行くにつれて、脚本がどんどん、変わっていった。
思っていた人間ドラマの話ではなく、三流のおとぎ話になっていく。
アレック・ギネスは、カチンと来ました。おれはこう見えても、シェークスピアをやったことがある。人間ドラマじゃないんだったら、この映画を降りる。
ところが、監督は契約書を見せました。そこには、脚本は変わることがあるが、それに了承しますとサインしてありました。
なので、アレック・ギネスは、ルークが最後にデス・スターで魚雷を撃ち込むシーンで、本来なら、「がんばれ、がんばれ!」と応援するのが人間的だ思っていたのを、まるでケノービの亡霊か機械のようなシーンにさせられて、ものすごく怒ってしまいました。
一般公開された『スターウォーズ』は、売れに売れました。キャラクターの造形がひずんでいるとか、話にムリがあるとか、いろいろ批判もされましたが、アレック・ギネスはこの作品で、伝説になりました。
その当時のSF批評家は、『スターウォーズ』のキャラクターがご都合主義的なのは、ありがちなSFのお約束なのだと評しました。
アレック・ギネスは納得せず、サインをもらいに来た少女に、「オビ=ワン・ケノービ」と呼ばれたときサインを拒否して、「わたしをそう呼ぶな。あの映画はおれの黒歴史だ」と吐き捨てたという話が伝わっています。
それほどまでに、当時のSFには、人間ドラマ的な要素がなかったのです。そして、ルイスのようなファンタジー作家も、それを推奨する傾向がありました。
その傾向が、あきらかに変わってきたのは、おそらく映画『ET』からではないでしょうか。主人公の少年が、月に向かって自転車を飛ばすシーンはいまでも有名ですし、ETのきもかわいい姿も、キャラクターとして突出しています。
主人公が平凡なのは、まあ、お約束なところもあるでしょうが、ETという個性的なキャラクターを出してきたことで、それまでのSFとは一線を画したと言えるでしょう。
その後、SFは、地続きの未来を描く分野が発達しました。ガンダムが宇宙コロニーを堕とすとか、銀河帝国の最終兵器トールハンマーが宇宙艦隊を蹴散らすとか、未来にはたぶん、あるかもしれない世界を描くようになってきたのです。
となると、そこに活躍する人々もまた、個性が出てくるのが自然というものです。『銀河英雄伝説』という、群雄割拠な作品も出て来ました。銀英伝は、中国の古典『三国志演義』がモチーフだと思われますが、あれだけのキャラクターを宇宙空間で遊ばせるのは、たいした技量ですよね。
異世界転生モノで個性的なキャラクターが出やすいのは、場所が「ちょっと日常と違うだけ」だからからかもしれません。世界とキャラクターは、バランスが大事だというお話です。
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