第26話 新海誠とファンタジー その1

 わたしが新海誠の名前を知ったのは、NHKのニュースだったと記憶してます。2000年代に入ってからだったかな。当時としては斬新な、景色をそのままアニメ化する手法が話題になっていました。


 たしか、短編として、実験的に公開された作品だったはずです(『ほしのこえ』ではなかった記憶があるが、記録を取ってないからわからん)。



 わたしはそのとき思いました。アニメにしかできないことをするから、アニメの意味がある、景色をそのままなんて、実写とかドキュメンタリーを見てる方がリアルでいいじゃん。



 しかしその後、また報道がありまして、『ほしのこえ』が公開されたという。これには興味が湧きました。というのも、そのストーリー展開が、あきらかにSFだったからです。



 ストーリーを少し紹介しますと、とある事情で中学生の女の子は、地球をあとに宇宙へと旅立ちます。仲良しの男の子は、普通に高校へ進学します。宇宙に引き裂かれたふたりは、メールで連絡を取り続けますが、その往復にはめっちゃ時間がかかるのでした。なぜかというと、メールは光の速さを超えることができなかったからです(参考:アインシュタインの相対性理論)。それで、男の子はだんだん、返事が来ないことにイライラしはじめ……



 というお話のようですが、わたしは見たことがありません。ちょうど体調を崩してましてね、見逃しました。



 この『ほしのこえ』が公開されたのは、だいたい『ハリポタ』の流行りだした頃と重なっています。つまり、ファンタジーが一般的になり、大流行しはじめる頃と時期がいっしょなんです。



 新海誠は、この流行を無視して、自分の世界をつくりだし、話題にもなりました。いまだにこの作品を評価する声はあとをたちません。わたしもチャンスがあったら見たいなと思ってます(レンタル屋に行くときには忘れてる 笑)。



 なにが言いたいかというと、この『ほしのこえ』は、1995年に一般公開されたインターネットの時代と重なり、メールのやりとりに焦れる若者の心をガッチリつかんだ点で評価できるという点です。



 このインターネット時代の影響は、実は『ハリポタ』にも見られる現象です。たしかパート2の映画では、主人公のハリーが日記をつけると、日記が返事の文字を表示させるというシーンがあったはずです。


 これが、ネットのやりとりと似ている、とわたしには思えてなりません。文字を書いて送付する。返答が文字で返ってくる。考えてみるとファンタジーですね。



 新海誠は、このメールのやりとりにSF的要素(アインシュタインの理論)を見たようです。アインシュタインによると、時間はその人によって経過のしかたが違って感じられるといいます。なにものも光の速さを超えられず、光に近づくと、人間は年を取るのが遅くなるそうです。



 SFのテーマである、『科学の驚異』という観点から見ると、『ほしのこえ』は充分すぎるほどSFですが、メールという手段は、その当時にしてみれば『ありえざるもの』でした。つまり、ファンタジーでした。ハリポタの秘密の日記と同じです。字を書くと、知らないうちに返答が返ってくるんですから! 



『ほしのこえ』は、サイエンス的にもよくできた話です。アインシュタインの理論を知っていようといまいと、その映画じたいが、時代に飲まれない孤高の存在として、力強く光を放っています。



 とはいえ現実的に見ると、ちょっと首を傾げる部分も多々あります。実際の話、宇宙へ行ったら食事はどうするのでしょうか。排泄は? お風呂はどうするんでしょう? 適度な運動も必要です。



 光の速さを超えられないメールを打つのなら、内容も熟考しなければならないでしょう。いろいろ考えると、この話が、小説にはしにくい作品だということがわかってきます。小説だと、いろいろツッコミが来る(笑)



 そんなツッコミよりも、大切なのはメールのやりとりに焦れる気持ちなんだ、それは恋のやるせなさに通じるんだという人もいます。待てど暮らせど来ぬ人を、宵待草のやるせなさ。



 しかし、いまは2021年。メールの返答は待つ必要はなく、LINEで着信音が鳴ったり、辛抱できなかったら電話という時代です。恋に焦れる気持ちは消滅しちゃったのかもしれません。時代が滅ぼしたのは、ドードー鳥だけじゃなさそうです。

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