第25話 SF御三家の功罪

 日本におけるSF御三家といえば、小松左京、星新一、筒井康隆の三人だと言われています。前述したように、小松左京は『日本沈没』で一世を風靡しました。



 小松は長編第一作『復活の日』(1964年)においてウイルスで絶滅の危機に立たされた人類を描いたり、映画『さよならジュピター』(1982年)の原作を書いたり、ベストセラーにはなったがラストが消化不良気味の『首都消失』(1985年)を書いたりしています。(『日本沈没』は長編第二作目)。



 星新一は、『世にも奇妙な物語』(タモリの司会のドラマ)の原作にもなった『おーい、でてこーい』などのショートショートが有名。なんと1,000本以上、作品を書いたんだそうです。この人は、エッセイも書いていて、『子どもの頃にテディベアを買ってもらった』という記事の載った本をよんだことがあります。


 筒井康隆は、『時をかける少女』とか、『七瀬ふたたび』で有名ですが、本来はナンセンス作家です。『日本以外全部沈没』でも話題になりました。日本沈没ではなく、日本以外がぜんぶ沈んじゃうので、各国の首脳や有名人が、日本に押しかけてくる――というストーリー。懐かしい人が出てくるので、60歳以上の人におすすめ。



 この人たちとはちょっとレベルが落ちますが、それでも老舗として挙げなくちゃいけないのは、眉村卓でしょうね。『ねらわれた学園』や、『なぞの転校生』『まぼろしのペンフレンド』が有名です。『ねらわれた学園』は映画になりましたが、敵役のナゾの目の腹巻きに笑いが止まりませんでした(ごめんなさい)。



 女性でSFの代表と言えば、やっぱりマンガでしょう。竹宮恵子、萩尾望都、青池保子。あー、大島弓子も入れたい。山田ミネコも、あしべゆうほも、たらさわみちも……止まらん。御三家にはおさまらん(涙)



 ともかく、マンガはそれほど読まなかった(というより、家がマンガを買わせてくれなかった)ので、語ることは少ないのでありました。残念です(涙)。



 今回のテーマはSF御三家の功罪なので、女性(マンガ)と男性(小説)双方の功罪を、簡潔に述べていきたいと思います。

 まずは、功のほうから。



 男性諸氏は、SFは得意技だったようです。まあ、海外でもSFは男性のモノと思われていたので、C.L.ムーア(SF作家。女性)は、投稿の際に性別を偽っていたという話もあります。なので、日本でもその傾向が強いのは、当然でしょう。



 なかでも、日本社会とその未来への考察を、徹底的に考え抜いた小松左京の功績は、多大なものがあったと思います。時代は高度成長期で、みんな浮かれてた時代だったんですが、小松左京だけは冷静だった気がする。



 当時80万円(現在のおカネで150万円ぐらい?)する、ワードプロセッサーを買って、「日本の文化に貢献する」と言ったときは、さすが一流作家だと感心しました。



 当時、漢字やひらがなという伝統文化を、ワープロのような機械に移すのは、文化の破壊だという論説があったんです(古い話ですが)。漢字やひらがなを設定された数字に置き換えるのが我慢ならなかったらしい(汗)小松左京のような人がいたから、スマホやパソコンで文字が打てるようなもんです。感謝してます。



 女性諸氏のほうは、マンガで描写される繊細な表現、海外SFに影響を受けた作品群(たとえば萩尾望都の『11人いる!』とか)が、わたしには印象が強いです。


『11人いる!』には、成長するにしたがって、性別を選べる異星人が出てきますが、これはル=グインの『闇の左手』の影響ですね。難しいSFを、だれにでもわかる絵で表現するところが、萩尾望都の優れた素質です。



 では、罪はなんでしょうか。

 まあ、時代がそうだったのだから仕方ない面もありますが、やはり盲目的に科学を信奉するところがいけなかったのかもしれない。


 当時でさえ、サリドマイドとか水俣病とか四日市ぜんそくとかがあったけど、みんなそれを無視して、やれ宇宙だロケットだ月旅行だ火星行きだと夢見てばかりいましたっけ。このあたりは、まるで異世界に夢を見ている現代とそっくり同じなので、いずれ異世界も幻滅したり飽きられたりするかもなと思ったりもする。



 環境破壊や地球温暖化は、自然を搾取することを推奨してきたSFと無関係だとはぜったいに言えません。夢には代償がつきものだということです。異世界転生モノも、代償をはらっている可能性があります。気をつけてね。

 

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