第13話 ファンタジーの大御所(日本版)

今度は日本におけるファンタジーの大御所です。

残念ながら、80年代になるまで、トールキンの『指輪物語』やル=グインのような『ゲド戦記』のような、壮大なストーリーを創り出した人はいませんでした。たしか小野不由美が、1991年に『魔性の子』を発表するまでは、日本のファンタジーと言えば、児童小説ですが、

『だれも知らない小さな国』(佐藤さとる)、『冒険者たち』(斎藤惇夫)、『空色勾玉』(荻原規子)ぐらいしか、目立った作品を出した人は知らないんですよね(だれか知っている人がいたら、教えてください)。


そのなかにあって、水野良の『ロードス島戦記』はエポックメイキング的な作品だとどこかで読んだことがあるんですが、残念ながら読み逃してしまいました(涙)

とはいえ、この『ロードス島戦記』は、明らかにゲーム的な要素があり、D&Dが元ネタの『ドラゴンランス』シリーズとその意味では変わらないかもしれません。


そこで、88年ごろに出てきた『空色勾玉』の話になるわけですが。


わたしは個人的には、『空色勾玉』は、あまり評価していません。というのも、





日本神話の体をとっているけれど、かなり西洋的な思想が入ってるなと思ったので。





闇が光にあこがれるあたり、日本が西洋にあこがれる思考とかなり似てるしね……。日本には、光と闇をわける思想はなかったと思う。その思想はゾロアスター教から来ているのであります。もちろんゾロアスター教は、古代アジアの宗教でしたけれど、日本はオリジナルの神道という宗教がありましたから。


そこで、わたしのオススメは、西洋の呪縛をほとんど感じない、

『精霊の守り人』(上橋菜穂子)

ですね。

この人と、小野不由美の『十二国記』は、読み応えもあっていい作品が多い。おカネと書棚にスペースがないので、シリーズをそろえられないのが残念です(涙)。

かつてNHKで、『精霊の守り人』シリーズのドラマ(綾瀬はるか主演)をやってましてね。

シリーズを全部読めないながらも、ストーリーはよくわかりました。

いかにも人類文化学者の書いた作品だなと思いましたよ。

上っ面だけのファンタジーじゃない。ちゃんと、この世界に生きている人たちがいる。

『獣の奏者』も第一巻を読みました。少々、肩透かしを食らった気分です。

どこかのサイトにネタバレしているところがあったので、なおさら興ざめだったのかもしれません。


小野不由美の『十二国記』は、『月の影 影の海』を読みました。いじめられ、排除される主人公の姿に、すっかり感情移入してしまいました。

古代中国をモチーフにしていながら、それにこだわらない姿勢は、ナーロッパ的な開き直りみたいなかんじも見られます(笑)。十二国のそれぞれの形は、コンピュータゲームの地図みたいだとする評価もあったりします。が、中で生活する人たちはリアルで、弱みも強みも併せ持ちながら、希望を抱いて前に進んで行く姿は感動的です。このふたりの作品は、なんど読んでも読み応えがあって、わたしはすごく好きですね。


ライトノベルで一時期はやった『フォーチュン・クエスト』は、今どうなってるのでしょうか。わたしもあの話はけっこう気に入ってました。ほんわかしていて、平和的で、ドラゴンがかわいい! 最近のライトノベルでは、ああいうほんわかものは、どうも見当たりません。ドラゴンがモフモフしているのって、いいと思うんだけどなあ。


以上、女の人ばかり活躍しているファンタジー界のご紹介をしてきました。

それ以前の時代で、トールキンの『指輪物語』以上の壮大なストーリーを展開した著作物(小説以外)があります。

手塚治虫の、『火の鳥』です。

手塚治虫の着想は、そもそもはゲーテの『ファウスト』から来たようですが、キリスト教的影響は、ほとんど感じられません(永遠の命うんぬんは、キリスト教的だとは思うけど)。

舞台を宇宙に展開した作品があるかと思うと、未来に舞台を移した作品、超古代の日本を舞台にした作品もあり、どれも火の鳥が狂言回しになっています。

わたしは、あの作品におけるコスモゾーンという概念が、なかなかステキだなと思います。地球を一個の生命体として考える、すごい発想だと思いました。

手塚治虫には、いっしゅ独特の哲学があって、いまでも『ブラックジャック』は読んでいるドクターが多いと思われます。これも生命について考えさせる、素晴らしいファンタジーだとわたしは思っています。

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