第11話 ファンタジーと宮崎駿

 ファンタジーと宮崎駿についてです。これについては、もう、語り尽くされた感がはんぱないのですが、個人的に思うことをつらつら、語っていきます。



 わたしの実家は、基本的に漫画・アニメ禁止の家でした。70年代には、そういう家が多かったような印象があります。漫画やアニメは低俗で、子どもの成長にはよくない、とPTAから総スカンされていたんです。だからわたしにとっての宮崎駿は、わたしが20代になり、『風の谷のナウシカ』を知ったときからでした。



 宮崎駿が映画を作った、と宣伝されていたので、宮崎駿ってだれだろうと思ったことは、いまでも不勉強だったと反省しきりです。ともかく、『風の谷のナウシカ』を観て、わたしの思ったことは、



「これはディストピアSFかな?」



 ということでした。腐海とか、王蟲とか、出てくるものはオリジナリティーがありますが、独特のオタクな雰囲気がSF的だったからです。ファンタジーだとは思わなかった。



 しかし、その後の宮崎駿の諸作品は、『風立ちぬ』を除いて、だいたいファンタジーだったような気がします。『魔女宅』とかありますが、まったくのオリジナルはこの『風の谷のナウシカ』『となりのトトロ』『もののけ姫』、『紅の豚』、『千と千尋の神隠し』『崖の上のポニョ』かな(『天空の城ラピュタ』は、宮崎駿のセルフパロディだという話)。


 わたしのお気に入りは、『となりのトトロ』。宮崎駿は独自のファンタジー手法を用いているなと感心したものです。それにどの作品を観ても、さりげなくメッセージが入っている。



 で、考えたんです。


 宮崎は、なぜ、表現手法としてファンタジーを選んだのだろうと。



 おなじジブリにいた高畑勲はリアルな表現を好む人で、宮崎の夢見がちな映像には批判的でした。高畑から言わせると、ファンタジーはしょせん夢物語で、現実逃避に過ぎない。



 しかし、宮崎駿には別な考えがありました。



 彼には、「理想を掲げつつ、現実を歩む」という信念があるそうです。わたしの勝手な考え方ですが、ファンタジーに置いて理想と現実を描くことで、そのメッセージを伝えたい――そういう思いがあるのかもしれません。



 70年代のミュージカル、『ラ・マンチャの男』には、こんなセリフがあります。



『一番憎むべき狂気とは、あるがままの人生に、ただ折り合いをつけてしまって、あるべき姿のために戦わないことだ』



 ファンタジーという夢をとおして、あるがままの人生よりも、あるべき人生のために戦う姿勢を示しているのでしょうか?


 よくTVで放送される映画のシリーズを、たびたび観る機会があります。実写でも、じゅうぶんメッセージが伝わる話もあります。たとえば『風立ちぬ』は、アニメにする必要がどこにあるのか、ちょっと理解に苦しみました。



 (『魔女宅』は別の監督で実写版も観ましたし、それなりに楽しかったですが、なにかが欠けている気がしました。先に宮崎駿の作品を観てしまったからでしょうか)。


 わたしはファンタジーにリアルさを加味して成功した作品としては、ハリポタぐらいしか思いつきません。たとえば高畑の『平成狸合戦ぽんぽこ』、宮崎駿の『もののけ姫』にもある、自然を破壊する人間というメッセージはリアルで押しつけがましく感じられ、わたしには好みではありませんでした。



 Wikiによると、ファンタジーは「現実の社会が有する問題に個人がどう対応するか示唆が求められている」ということですが、少なくとも宮崎駿の作品群には、そういった示唆は感じられません。いや、示唆はあるのでしょうが、わたしの行動に結びつける力は感じません。



 『レ・ミゼラブル』では、罪の重さと刑の重さについて問題を提示し、社会を変えてしまったという実績があります。高畑や宮崎のアニメには、それだけの力はあるでしょうか……?  



 楽しくてワクワクして、という作品は、わたしも大好きです。そして、それが現実を変えられたらいいな、と思います。


 あるべき人生のために戦うのは、現実ではなかなか難しく、ファンタジーだからこそできる可能性があるのです。今後、宮崎駿は10年以内に、また新作『君たちはどう生きるか』を発表するそうなので、期待しましょう(この『君たちはどう生きるか』は、冒険ファンタジーになるそうです)。 



 

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