第10話 ファンタジーと転生モノ
転生モノに関して、お話しします。
高校生の時、『アーサー王宮廷のヤンキー』というマーク・トウェーンの作品を読んだことがあります。
19世紀のアメリカ人が、大昔のイギリス・アーサー王時代に転生、
そこで科学的知識を使って魔法使いになり、大活躍するストーリーで、
オチを言うと魔法使いマーリンが主人公の活躍に嫉妬。彼の陰謀によって、主人公が現代(19世紀)まで眠らされるハメになるんですね。市販された一般小説としては、いちばん古いタイプの歴史改変モノなのだそうです。
この、古い時代と現代のギャップに驚く話は、映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』にもありましたが、ぜったい影響されてると思います。同じアメリカ人だし。
それはともかく、転生モノです。異世界に日本人が行くときは、生まれ変わるか神さまの召喚か、ぐらいしか思いつかないほど一般化された概念です。
このパターンでは、異世界に転生するとき主人公は、かならず前の世界の知識を記憶しています。その知識を使って、たとえば、戦争で優位に立ったり、店を出したり、本をつくったりします。死の商人になって活躍する話もあります(本人は、死の商人だと自覚してなかったり)。
では、なぜ、今、転生なのでしょうか。
異世界移転モノのいちばん古い『児童小説』は、わたしの知る限りでは『ナルニア国物語』なのですが、このシリーズでは、主人公は転生『せずに』異世界へと行きます。第一巻『ライオンと魔女』では、主人公の少女ルーシーが、衣装ダンスの扉を開けて異世界ナルニアへと飛び込みます。
第二巻『カスピアン王子のつのぶえ』では、ルーシーを含む主人公4人組が、魔法の角笛で召喚されて異世界ナルニアに行きます。第六巻にいたるまで、転生はしません(最後の巻は違うようですが、主人公たちが転生する際には、ちゃんと理由が暗示されています)。
わたしの見るところ、ライトノベルでの転生モノには、あまり理由はありません。主人公が不幸だったから、異世界に行ってやりなおすというパターンが多いようです。実は戦神だったとか、もともと勇者だったとか、転生モノにはいろいろ種類があるようですが、主人公が欲求不満だから異世界で解消する、というパターンが多数ですし、それがウケる傾向にある。
それだけ現実に絶望している人が多いのでしょう。ていうか、現実になにかが欠けているから、それを求めてファンタジーに傾倒する。
さてみなさん、これらの作品のなかに、求めているものは、見つかりましたか?
大量のおカネを払って、それでも同じパターンの媒体を買う。なにか、現代日本には「ないもの」が、こういったファンタジーの世界には「ある」のでしょう。でも……。
現実の苦みをきらっていては、現実の本当のたのしみは見いだせないかもしれません。
バロウズの『火星シリーズ』を転生モノに加えると、それが生まれてからもう、100年以上経っています。。パターンは出尽くしているし、アイデアも出尽くしているはずなんですが、それでも書き手や読者は、異世界に行けたらいいな、という夢を、あきらめきれない。
30年前には、この「あったらいいな」という夢の実現という意味で、架空戦記モノが流行りました。ご存じない方のために説明しますと、具体的には、第二次大戦にもし、日本が勝っていたらという設定のもとに作られた作品群が有名で、
『紺碧の艦隊』が代表作品です。
この分野のおかげで、第二次大戦中の日本をみなおす動きもあったようですが、その後どうなったかというと、いまそういった架空戦記ものは、わたしの書店にはみあたりません。しょせん絵空事だったので、シラけた人が出てきたのでしょうか?
アニメにもなり、この架空戦記モノの影響で『銀河英雄伝説』もウケる下地ができたようなものなのですが(汗)
そういう意味では転生モノも、のほほんとばかりしてはいられません。いつかは飽きられるのが、こういった『願望充足型物語』の持つ宿命です。
ただ、転生モノやナーロッパ風の小説は、昔話のパターンを踏まえている場合がおおいので、今後も続くかもしれません。ゲーム『ドラクエ』の名はなくなっても、こういったパターンの小説は、生き残っていく可能性はあります。
少なくともスプラッタよりは、人々の好むジャンルですしね。それに、わたしもこういう作品は、きらいじゃありませんし。
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