第9話 ファンタジーとテンプレ

 ファンタジーについて、いろいろ考察してきましたが、まだまだ書き足りない部分がありますので、続けます(笑)

 まずは、一般的なライトノベルにおけるファンタジーの政治・社会体制についてです。いわゆる身分制度や、王さまが権力の大半をにぎっている絶対王権のような体制のことですが、なぜライトノベルでは身分制度があるのだろう、と疑問を持ったプロ作家がおりました。





自分は身分制度には反対だが、異世界に行くとかならず王さまや貴族がいて、貧しい人たちが底辺にいる。異世界が理想の地なら、身分の格差や貧富の差はないのではと。






 実際、絶対王権は中世の一時期にしか存在しなかったんです。西洋の中世も長いので、社会体制もそれぞれ違っています。日本の江戸時代のように、封建主義だった時代もあります。でも、それだと話としては面白くない。








 どうせなら、強い権力をにぎった王さまをやっつけて、自分があとがまに座りたい――なんて願望があるので、ライトノベルに絶対王権的な政治体制があるのでしょう。身分制度があるのも、自分より下に人をつくって、優位に立った快感を味わいたい、ということから異世界に身分制度が存在するのかもしれません。









 身分制度に疑問があるとしながらも、身分制度をモチーフにして、理想の王子さまを書いていたそのプロ作家が、その後どうなったのかは知りませんが、需要のあるところに供給するのはプロとして当然です。信念だけじゃあ、仕事はできない。






 それに、身分制度のある世界では、英雄が出やすいのもたしかです。いまある社会制度に疑問を持つ。それを変革しようと英雄が立ち上がる。そして、英雄は社会を変える。そういうストーリーが書きやすい。魔王という絶対王権を持つ邪悪な存在も描きやすい。









 魔王もののストーリーのパターンとしては、小さな村や農村から選ばれた勇者が立ち上がって、仲間とともに魔王を倒して平和をもたらす、という黄金のテンプレートが存在します。








 このテンプレ、あんまり使い倒されたものだから、そういうストーリーじたいをパロディにした作品もあるくらいです。有名なテンプレですし、チートでハーレムな話を書きやすいので人気がありますが、よほど注意しないとオリジナリティーがない話になります。






 俺つえーとか、ざまあモノ(最初は負けているが、最後に主人公が勝つパターン)とか、悪役令嬢ものとか、タイトルをばかながくして短い話を連投したり、かわいい女子高生かモフモフを出すと受けるらしいという人もいます。男なら強さにあこがれるのは当然、かもしれませんが、





 単に魔王を倒すだけの強さだとしたら、魔王がいなくなったあとには悲惨な人生が待っていると言わざるを得ません。





 たとえば映画『シェーン』では、一見よわそうなガンマンが実は最強で、しいたげられている一家を悪いヤツから救うのですが、最後にはそこを立ち去って行きます。「シェーン! カムバーック!」と叫ぶいたいけない少年の悲しげな声は、名作らしい響きがあります。





 この話におけるシェーンは強すぎて長居ができなかった。お約束としては悲しい結末です。現代でこれをやったら、読者は離れちゃうこと間違いなしですね。






 要するに、強いのはいいんですが「なんのために」強いのか、このあたりをちゃんと考えなくてはなりません。でなければ主人公はただ、世界を救うだけの機械なのかという話になるのでは、などと愚考します。まあ、こういう一種の軽い清涼剤みたいな作品には、そこまで期待するのは間違いなのでしょうけれど。






 ネットを探せば、お約束がどれだけウケるか、どうすればPVが増えるかという考察は見受けられるし、しちめんどくさい哲学や思想なんかファンタジーには不要だ、とするプルマンやローリングみたいな人もいます。





 では、彼らはどんな作品を書いているか、というと、プルマンの『黄金の羅針盤』には身勝手でジコチューな少女が出てきますし、





 ローリングの『ハリポタ』における主人公のハリポタは、最後までけっしてヴォルデモードを許しませんでした(ヴォルデモードが同情的な境遇にあったとしても)。哲学や思想がない代わりに、どこまでも自分中心のストーリーが展開しているわけです。





 わたしは、ハリーが最後に見せた冷たさを、忘れることができません。それが全世界的にウケているということに、疑問すら感じているのです。

 

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