第8話 そのほかのファンタジー
動物とのコミュニケーションを外国で最初に扱った作品は、ヒュー・ロフティングの『ドリトル先生』シリーズでした。それまでは、外国人の間では、犬や猫に言葉があるなんて、考えもしていなかったのです。舞台は19世紀のイギリスですから、この作品はモダン・ファンタジーと言えるかもしれません。『ドリトル先生航海記』の冒頭を、小学校四年だったわたしはハッキリ覚えています。
「おじいさんが子どもだった頃」
というんです。おじいさんが子どもだった! 考えもしなかった切り口でした。それだけでもう、この本の虜になりましたね。
動物がしゃべり、行動するファンタジーもあります。『冒険者たち』です。斎藤敦夫の動物冒険ファンタジー。野沢雅子が主人公の声をあてたアニメ『ガンバの冒険』として有名。外国では『ウォターシップダウンのうさぎたち』(リチャード・アダムス著。評論社。社会風刺としても有名)のような作品もあります。
あとは、ナンセンスなものとして、「不思議の国のアリス」(ルイス・キャロル)もファンタジーとしてあげられます。チョッキを着た奇妙なうさぎを追いかけて、変な世界に飛び込んだアリスが、いろいろな騒動に巻き込まれていく話です。
この作品が発表され、大評判になったあと、イギリスの王女が「次回作を献上してね」ってお願いしたら、キャロルは次回作となった数学の本を献上しました(キャロルは数学者だったのです)。アリスシリーズを期待していた王女はガックリ、という話が伝わっています。
歴史ファンタジーという分野もあります。この分野で有名なのは、古典ではアーサー王と円卓の騎士の物語ですが、2000年代になったとき、イラン・イラクの歴史をモチーフにした作品『アルスラーン戦記』(田中芳樹)という作品も出て来たと記憶しています。わたしは数冊読みましたが、『銀河英雄伝説』ほどワクワクしなかったので、途中で読むのをやめました(こら)。
もし……だったら、という架空戦記ものも、80年代には大流行しましたが、さて、いまはどうなっているのやら(笑)
最後にファンタジーとして考えられるのは、最近流行している異世界転生ものでしょうか。1995年頃に、西谷史が『女神転生』という作品を世間に出してから、主人公が異世界に転生して大活躍する、いわゆる『転生モノ』が主流になってきました。(『女神転生』は、異世界に転生する話ではないですが、マーク・トウェーンの『アーサー王宮廷のヤンキー』を除いて、転生ということが一般に初めて認識された作品なのです)。
思えば30年近く、こういった類型の話が繰り返されています。トラックにはねられたり、女神に召喚されたり、洞窟の扉を開けたり、異世界に行くにもいろんなパターンはありますが、異世界へ行ったら今の自分とはまったく違っていて、願いはなんでもかなえられる、みたいな話が多いような(汗)
こういった作品群の多くでエルフの耳が長いのは、『ロードス島戦記』(水野良)の挿絵の影響からでした(指輪物語のエルフは、ちょっと耳がとがってるだけだった)。また、チートやハーレムものというジャンルを生み出したのは、小説投稿サイト『小説家になろう』が最初だそうです。
チートという呼称は、ファミコンゲームからの影響です(ズルをして、最強になって、ゲームを優位に運ぶプログラムモードのことを、チート、つまりズルと呼ぶんです)。
そういえば、バトルファンタジーや、ゲームファンタジーという分類も、ファンタジーには含まれていますね。戦闘ばかりやっているファンタジーや、ファミコンなどのゲームで使用される世界観を含んだファンタジーです。
ここで苦言を言いたいんですが、ドラクエ風の小説は中世ヨーロッパではありません。歴史をまともに勉強すると、ライトノベルがウソばかり書いているのがわかります。パターンもだいたい、決まっています。自分の世界観を生み出す力がないのでしょうか? わたしは借り物のイメージで量産された作品を喜ぶ読者の姿を見て、ちょっと憂鬱になります。
パターンさえ踏めば作品が作れる現代。しかしナーロッパはいずれ、AIに駆逐されるかも。よほど独創的なアイデアを盛り込まないと、機械にヤラレちゃう。でも、AI棋士が出てもプロ棋士はいますから、意外とラノベも、生き残るかもしれません。
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