第7話 ホラー・ファンタジー

ファンタジーの中には、ホラーを扱ったものもあります。神話的・オカルト的な味付けのホラーは、だいたいファンタジーだと分類してもいいかもしれません。

 古典的なホラー・ファンタジーは、ラヴクラフトの『クトゥルフ神話』でしょうね。この作品、TRPGになったり、栗本薫が影響されたりして、かなり有名です。


『クトゥルフ神話』は宇宙的なホラー作品と言えるでしょうが、ホラーには簡単な亡霊話もありますし、日本では、伝奇ものと呼ばれる日本の神話や伝承と絡めた独特の分野が、エンターテインメントとして普及しています。横溝正史の『悪魔の手毬唄』などが、この分野の草分け的な存在だと記憶しています。最近(といっても80年代)では、鈴木光司の『リング』のような作品も出てきました。


『リング』は、登場人物の貞子ちゃんがなぜ死んだのかという謎を含んだホラーでした。怖いと言うより、かわいそうな作品でした。



 80年代90年代には、ディーン・クーンツのようなホラーを専門とする作家も現れましたねえ。ちなみにわたしは、クーンツの作品群の中で一番のお気に入りは、時間旅行を扱った『ライトニング』です。80年代のアメリカで、ナチスに命を狙われるごくふつうの女性の謎を追った話です。すごい意外な設定でした。ゾクッとしましたね。



ホラーの舞台を19世紀以前に持って来るとゴシック・ホラーになり、19世紀以降に持って来るとモダン・ホラーになるといいます。なぜ19世紀かというと、この頃に産業革命が終わったからで、社会の構造そのものが変革してしまった時代を境にする、ということから、中世時代と現代を分ける、という考え方があるようです。



  ゴシック・ホラーの代表は、ブラム・ストーカーの『吸血鬼ドラキュラ』。そして、エドガー・アラン・ポーの『黒猫』『アッシャー家の崩壊』などの諸作品でしょう。


 エドガー・アラン・ポーは、日本人にも影響を与えています。江戸川乱歩は、名前を引用していますし、漫画の『名探偵コナン』の主人公江戸川コナンも、もとはといえばポーが源流です。そうそう、萩尾望都の『ポーの一族』という作品もありましたね。名探偵コナンは推理、ポーの一族はファンタジー、江戸川乱歩は古典推理とジャンルは違ったりするわけですが。



 モダン・ホラーで有名なのは、スティーブン・キングの『シャイニング』。映画のワンシーンで、シャワーを浴びている美女に、ナイフを突っ立てる男の映像がよく知られています。スティーブン・キングは、ディーン・クーンツとならぶアメリカの2大ホラーの帝王と呼ばれています。


 ディーン・クーンツが、パルプ・フィクション風の文体であるのと違って、スティーブン・キングは文学的な文体を好んで使います。ホラーの作者としては、キングの方が残っていくかもしれません(でもクーンツの方が好きだけど)。



ホラー・ファンタジー。最後に二つばかり、マイナーな分野・滅びた分野のご紹介です。

 ひとつは、コズミック・ファンタジー。ジョン・W・キャンベルの『月は地獄だ!』みたいなハードSFも、これに含まれるかもしれません。


 人類に対して、宇宙は必ずしも親切とは限らない、というテーマを含んだファンタジーです(ラヴクラフトの『クトゥルフ神話』も、これにあたるでしょう)。強いて言えば、光瀬龍の『百億の昼と千億の夜』も、これに含まれるんじゃないかと愚考します。『百億の昼と千億の夜』は、わたしは萩尾望都の漫画版を読みましたが、非常に感銘を受けました。宇宙と神と人間、その間の壮大なドラマ! あしゅらおうの絶望的な戦いが、いまでも胸に迫ります。



 もうひとつは、滅びた分野です。スプラッタですね。80年代には、大流行しました。血や内臓が飛び散る悪趣味さと、生理的な嫌悪感がテーマになったファンタジーです。具体的には、『バタリアン』とか、『13日の金曜日』といった映画群でしょうか。バタリアンは、あんまり流行ったものですから、日本では『オバタリアン』というタイトルのサラリーマン向けの漫画まで出て来たものでした。


ファンタジーは、『ありえざるもの』を扱うジャンルだ、ということを、わたしのシリーズでは語っています。次回以降、そのほかのファンタジーを少し紹介しましょう。

 

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