第6話 ファンタジーの源流その2

 ファンタジーの源流について、もうちょっと考えてみましょう。

 現在のSFやファンタジーに多大な影響を与えた作品のひとつ、それはトーマス・モアの『ユートピア』だとされています。ファンタジーやSFに無関心なひとも、ユートピアが理想国家を指す言葉だ、ぐらいのことは知っているでしょう(湊かなえの『ユートピア』とは違いますので、念のため)。



 ユートピアとは、ギリシャ語で「どこにもない場所」を指しています。もとは16世紀の宗教革命間近のイギリスで書かれた作品です。ちなみにトーマス・モアは小説家ではありません。イングランドの法律家、思想家、人文主義者で、大法官までのぼりつめましたが、ヘンリー8世の離婚問題に介入して、反逆罪で断首されました。口は災いの元です。



 モアの活躍した16世紀と言えば、ちょうど大航海時代まっさかりで、スペインやポルトガルが主導権をにぎっていた時代です。(日本では、戦国時代末期ですね。関ヶ原の合戦は1600年でした)。


 アメリカは15世紀に発見されましたし、新しいなにかが始まろうとしている時期でもありました。そういう時代の流れによって、イギリスの重要な役職についていたモアが、自分の政治的理想を書き残そうとしたのかもしれません。話によると、『ユートピア』の内容は、晴耕雨読の小国家のバランスによる国家が理想というのだそうですが、わたしは読んだことがありません(こら)。



 有名と言えば、教科書にも出てくる哲学者、フランシス・ベーコンも有名です。プラトンの『国家』を基礎として、理想国家を謳った『ニュー・アトランティス』という作品を残していると言います。『ニュー・アトランティス』はトーマス・モアとは対照的な内容で、科学を利用した理想国家を論じているそうです。



 これらの作品は、のちのユートピア小説やディストピア小説に強烈なインパクトを与えました。歴史的に見るとこれらの作品以降、ファンタジーのスタイルを取って、政治や歴史、人類の文明そのものを風刺する小説、ひいては『天空の城ラピュタ』のような名作アニメが登場してきます。


 名古屋にある銭湯『湯~とぴあ』まで出てくる始末。


 影響力、はんぱないですね。ちょっと話はズレるんですが、この『湯~とぴあ』を舞台にした映画『テルマエ・ロマエ2』は、なかなか笑えて楽しかったです。この『テルマエ・ロマエ』シリーズも、日本の文明や古代ギリシャ文明を風刺しているという点で、ユートピア作品と言えるかもしれません。



 ファンタジーの源流、さらに考察を続けます。 

 ユートピア小説が風刺をモチーフにしているのとは違って、ゴシック・ロマンという形式も、ファンタジーには存在します。ゴシックとは、中世的な様式を指していますが、ここでは歴史的な背景の中で起きる、超自然的な現象や幻想的な出来事を扱った作品を総称することにしましょう。



 この分野でいちばん有名なのは、メアリー・シェリーの『フランケンシュタイン』ですね。死体から作られた人造人間が、創造主にきらわれてしまう悲しい話です。西洋で一番ふるいSFだと言われています。日本では、もちろん『竹取物語』。言うまでもなく、宇宙人ものです。



ただ、舞台があまりにも特殊なため(竹とかミカドとか出てくるし)、外国人にはわかりにくい面があるようです(涙)。



 ファンタジーの源流で、忘れてはならないのは秘境冒険小説です。秘境とは、北極とか砂漠とかアマゾンとか、とにかく普通の人の行けないような場所のことですが、方向性はふたつありました。一つには、実際の探検家などによって執筆されるノンフィクション。もうひとつは作者による架空の内容のもの。現代では、この分野は後者に属するものだと考えられています。



 日本では、小栗虫太郎の『魔境もの』(シリーズは『人外魔境』としてまとめられています)が有名です。この人の影響で、たとえば香山滋による『人見十吉』ものなどが現れたとされています。



 外国では、ジュール・ベルヌの『地底旅行』、ヘンリー・ライダー・ハガードの『ソロモン王の洞窟』ほか、コナン・ドイルの『失われた世界』、エドラー・ライス・バローズの『ペルシダー・シリーズ』などがあります。



 コナン・ドイルの『失われた世界』は、恐竜が出てきて楽しかった。でも、ホームズほど売れなかったらしい(笑)

 

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