第4話 ファンタジーのタイプあれこれ4

 さて、いよいよロー・ファンタジーの出番です。ロー・ファンタジーは、舞台を他の世界に求めないし、小規模の非合理的な出来事を描くことが多いジャンルです(ハイ・ファンタジーは、異世界を舞台にすることが多いようです)。


 具体的には、魔法が失われてしまった時代において、魔法力をわずかに残した生き物が活躍したり、不思議な出来事が起こったりするわけです。『魔女の宅急便』は、その典型と言えます。


 ロー・ファンタジーは現実の中にファンタジーを持ち込みますが、それは非常に小さな出来事で、決して世界の運命や国家の存亡に関わるものではありません。



このロー・ファンタジーでまっさきに思いつくのは、エヴリデー・マジックと呼ばれる分野です。身近に魔法が現れるといったような、個人的な幻想体験を扱ったジャンルで、古典でもっとも有名なのは『メアリー・ポピンズ』。


 ドラマでは『奥さまは魔女』(古いね)。アニメ・漫画界では、『ドラえもん』でしょうか。毎日が魔法ということで、楽しくもややこしい事態が、これらの作品に表現されています。



  この分野は、ふつうの日常生活が幻想体験化してしまったので、現代ではそれほど目新しいものではなくなりました。80年代には、洋ドラ『ナイトライダー』みたいにしゃべる車がいる、というとそれだけで驚きでしたが、


 21世紀の現代にはふつうにしゃべる車がいたり(外国でいちばん有名な日本語は、『ETCカードを挿入してください』だそうです。中古車がよく売られているからなんだそうですよ)、


 エレベーターは、『お待たせしました』とか謝罪する。自販機だと、『いらっしゃいませ』って言う。70年代、しゃべる自販機が出てきたときには、おばあちゃんが自販機に、「ありがとね」なんて語りかけているシーンを見かけたものです。そんな現状があるので、いまさらロボットが現れても、珍しいなんて思わない。むしろ敵意を感じて、壊しちゃったりするんです(汗)。



 夢が現実化されていくにつれて、人間の生きる力が弱くなってきた、と感じる人もいるようです。このあいだTVを見ていたら、助産師さん(女性)が、出産に携わっているうちに、生命力の減退を目の当たりにして、仏門に入った話をやってました。そのお寺では、庭で農作業をし、料理・掃除・洗濯などは、キッチリ自分でやり、年間1800時間も坐禅を組むのだそうで……。



 現実社会がどんどん魔法的になって行くにつれて、自然界とのつながりを求める人が、もっと増えるかもしれないなと思ったりもします。



 エヴリデー・マジックというロー・ファンタジーの分野のほかに、ノスタルジック・ファンタジーというものも存在します。その分野で傑作と言われているのは、ジャック・フィニーの『ゲイルズバーグの春を愛す』です。


 過去の郷愁と悔恨は、だれしも持っていますが、『ゲイルズバーグの春を愛す』は近代化の波が押し寄せる街に「過去」が干渉してる、という独特のアイデアで読ませる話です。が、少々古さも感じます。ちなみにゲイルズバーグは、リンカーンが演説した場所でもあるらしいです。



 こういったノスタルジック・ファンタジーは、どちらかというと時間SF的な要素を含んでいて、ファンタジーとSFの両方の味が楽しめるようになっています。『ゲイルズバーグの春を愛す』は、ファンタジー寄りですが、たとえば『バック・トゥ・ザ・フューチャー』はどちらかというとSF寄りです。筒井康隆の『時をかける少女』も、SF寄りかもしれません。



 ところで、時間旅行のことを日本では、「タイム・スリップする」という表現をしますが、これは筒井康隆の発案です。70年代、タイムトラベルよりもっといい表現はないか、と考えていたら、トイレで滑って転んで思いついたらしい(ホントかどうかは知らないが)。



 ロー・ファンタジーは、わたしたちにとってもかなり身近なファンタジーです。フィクションがお嫌いな方もおられるようですが、けっきょく言葉というのは目に見えないモノをあらわそうと努力する行為のひとつだとわたしは思っています。



 読者の中には、いずれ時間旅行も現実化すると思う人もいるかもしれません。実際にタイム・トラベラーが写真にもうつってるという映像を、ネットで見たことがあります。夢は現実になるでしょうか……? 期待(?)しましょう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る