第3話 ファンタジーのタイプあれこれ3

  ハイ・ファンタジーの主な分類、最後はノン・エピックファンタジーとライトファンタジーです。

 ノン・エピックファンタジーとは、叙事詩でもなければ英雄譚でもないファンタジーのことで、ライトノベルなら《ゆるい生活》《スローライフ》をテーマにした作品群が、これにあたるかもしれません。


 一般にスローライフな生活を送る主人公には、世界の趨勢にかかわるチャンスはほとんどありません、というか、社会の大きな流れとは関係なしに、自分の生活を営んでいます。異世界人に日本の洋食を食べさせてみたり、異世界で日本の進んだ科学を持ち込んで異世界人に感心されたり、農家にやっかいになって、異世界のジャムに夢中になったり、そのスローライフな実情はいろいろあります。


 要は、日本における日常で、叶わない現状をなんとか叶えたい、という夢から発せられた空想小説じゃないかな、とわたしは思ってます。



 この分野で傑作と言われているのは、ピーター・S・ビーグルの『最後のユニコーン』でしょうか。前述したスローライフ的ライトノベルとはまったく一線を画しています。筋を紹介するなら、ライラックの森に暮らしていた一頭のユニコーンが、世界で唯一になったかもしれないと思い仲間を探す旅に出る。旅の仲間になる魔術師シュメンドリックは、魔法を失敗してばかり。ユニコーンはそんな彼とともにハガードの城へ……というストーリー展開で、


 『指輪物語』的な影響はありますけれど、ライトノベルとはぜんぜん違います。子どもの頃に読んだきりですが、なかなか読み応えのある作品だったように思います。

 


 最後の分類になりますが、ライト・ファンタジーもまた、ハイ・ファンタジーの一分野として存在するはずです。ライト・ファンタジーは、エピック・ファンタジーとヒロイック・ファンタジーの混合による、別世界物語です。具体的には、『ハリー・ポッター』シリーズがそれにあたるかもしれません。ハリポタは、叙事詩的展開もあるし、英雄伝という一面もある(はず)です。もちろん、別世界とリアリズムを混ぜ合わせた新しい作品でもあります。



 ライト・ファンタジーは別世界でのキャラクターの活躍であり、人間群像のドラマですが、ちょうどハリポタは、主な舞台がホグワーツ城の寄宿学校という別世界ですし(現実世界ももちろん含みます)、登場するキャラクターも、親友のロン、気の強いハーマイオニー、いじめっ子のドラコなど、個性的な人間がたくさんでてきます。この話には、魔法使いどうしの戦いだけでなく、さらに『死の秘宝』をめぐる謎と伝説に言及することで、より深い人間ドラマが展開することになります。



 ハリーの世界にも、エピック・ファンタジー風の世界設定(つまり、世界の構造やホグワーツ城内部禁じられた森などのさまざまな土地の様子、対抗する死喰い人などとの勢力バランス、ホグワーツの歴史や、イギリスにおける政治的立場、ヴォルデモードとの戦い)などが語られていますが、同時に、ヒロイック・ファンタジーのように、ハリーそれ自体の英雄的な面も語られています。



 たとえば、屋敷しもべ妖精がハリーのところへやってきて、さんざんハリーを悩ませる話が、第二巻にあります。名前をドビーというこの妖精、お騒がせキャラクターとしてはシリーズ中もっとも楽しいキャラクターのひとりです。が、ハリーはいい迷惑。



 ところがハリーは、その妖精が自由になるために一計を案じて実行する。

 このシーンは、なかなか面白かったし、映画で見てもインパクトがありました。もっとも、屋敷しもべ妖精のドビーくんは、わたしのイメージとはほど遠かったけど(汗)。



 ヒロイック・ファンタジーは、小説の扱うスケールが、かなり小さいものになります。実際、どれだけハリーたちが危機におちいったとしても、けっきょくは魔法世界の物語にしか過ぎなくて、身近じゃないというのも欠点の一つになるかもしれません。


 ヒーロー(英雄)と銘打っているように、特定の強力な主人公が冒険を繰り返す、というパターンをこのハリポタも踏んでおり、その意味では『荒野の七人』のような西部劇や『とある魔法の禁書目録』のような超能力学園もの、『レンズマン』のようなSFのパターンとさほど変わりません。非常に身近で理解しやすいのは長所ですが、『ファンタジー』の含まれる「ありえざるもの」への畏敬という概念は、なおざりになりがちなのは、短所です。

 

 

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