第2話 ファンタジーのタイプあれこれ その2

 ハイ・ファンタジーの二番目のタイプとして、ヒロイック・ファンタジーが挙げられます。 異なる世界でのある英雄の冒険を扱うファンタジーで、SFや秘境冒険小説と同じルーツ。剣を持った戦士とさまざまな魔法が主役になることが多いので、「剣と魔法の物語」とも呼ばれています。


『ソードアート・オンライン』は、剣と魔法の物語の一種ですね。日本や外国では、大昔(といっても70年代)ぐらいのこのジャンルでは、血なまぐさい作品が多く見られました。


 アーノルド・シュワルツェネッガーの映画『コナン』はその代表。コナンという孤高のヒーローが、町から町へ旅をしながら冒険し、やがて帝王になっていくというストーリー展開。コナンは蛮人なので、敵には容赦しません。この『コナン』はヒロイック・ファンタジーの源流のひとつです。



 『グイン・サーガ』もヒロイック・ファンタジーに入るかもしれません。冒頭に展開する「ノスフェラス編」でいたいけな子供たちを守って戦うグインは、典型的なヒーローですし、アーノルド・シュワルツェネッガー的な肉体派であります。



  この肉体派としてのヒロイック・ファンタジーでわたしが忘れられない作品が二つあって、ひとつはバロウズの『火星シリーズ』。もうひとつはマイナー映画の『ミラクルマスター 七つの冒険』ですね。順を追って説明します。



 エドガー・ライス・バロウズは、アメリカの三文パルプ雑誌作家です。パルプ雑誌とは、1894年に誕生し、1950年代まで主にアメリカで発売されていた安い雑誌のことで、使われていた紙が質の悪いパルプだったんです。意味は「安っぽい小説」「くだらない話」。低俗雑誌とされているパルプ雑誌ですが、


 ダシール・ハメットやエルモア・レナード、ロバート・A・ハインラインやアイザック・アシモフ、フィリップ・K・ディックなど、著名な作家も数多く執筆してました。元気だったその頃のアメリカをなつかしんで、わざとパルプ風の作品を書いていた、『ディーン・R・クーンツ』みたいな人もいます。



 ともかく、バロウズは、このパルプ雑誌に、『火星シリーズ』というシリーズを発表しました。筋を言うと、時は南北戦争時代。負け組の南軍に属していたジョン・カーターは、重傷を負って幽体離脱、地球から火星に瞬間移動。怪物相手に活劇を繰り広げ、美女を救い、地球に帰還してくる……という話だったと記憶しています。



 ジョン・カーターは、年齢も来歴も詳しくはわかりませんが、日本で最初に、『火星のプリンセス』が発売されたとき、なんという美麗な表紙だろうとビックリしました。内容より、そっちのほうに魅せられて、つい、手に取ったのもたしかです。



 わたしは、この作品の内容にもワクワクしました。火星がものすごく、身近に感じられたものです。たくさんの怪物たちを相手に、ジョン・カーターがブイブイ言わせるところは、今思い出してもドキドキものです。



  バロウズの作品に夢中になった頃に、『ミラクルマスター 七つの冒険』というヒロイック・ファンタジー映画がありました。呪いで動物から出産してしまった王子が、そのために動物と心を通じ合うようになり、悪い神官を倒す、という簡単なストーリーです。この、動物と心を通わせるシーンが、映画としてなかなか工夫されていて、子ども心にびびっと来たものです。



 さて、肉体派だけど、頭は空っぽというかんじのヒロイック・ファンタジーに疑問を投じ、新しいヒーロー像を提示したのが、マイケル・ムアコックの『エルリック・サーガ』です。


 身体の弱いエルリックという王子が、魔剣にあやつられ恋しい人を殺してしまうのに、魔剣を捨てることができない……。悲しみと弱さがテーマの、新しいヒーロー像でした。


 この、魔剣というアイデアがわたしにはツボでして、高校の時に、このアイデアでファンタジーを作ったこともありますが、ストーリーがめちゃくちゃになっちゃったので、読ませた友だちは迷惑だったろうなと反省しきりです。



ヒロイック・ファンタジーは、『コナン』や『ミラクルマスター』のような古代を舞台にするより、『指輪物語』のような中世を舞台にすることが多くなりました。そのぶん、荒々しさは減ったかもしれませんね。


 次回はハイ・ファンタジー編その3、ノン・エピックファンタジーとライトファンタジーをご紹介します。

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