SF・ファンタジーが好きですが、なにか?

田島絵里子

第1話 ファンタジーのタイプ あれこれ その1

ファンタジーの歴史は長いですが、80年代になるまで、ファンタジーは、お子さまを対象にしているレベルの低いジャンルだと思われていました。『ピーター・パン』や『不思議の国のアリス』など、ファンタジーの傑作はいろいろあるわけですが、その多くが児童小説から出ていたし、傑作も児童文学から出たことが多い。


 イメージが先行するのがファンタジーだと思っている人も、過去にはいたようです。



その意味で、宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』は、日本のファンタジーとして豊かなイメージが表現されたファンタジーだと言えるでしょう。



 イメージとしてのファンタジーとは別に、テーマとしてのファンタジー(幻想文学)という分類もあります。泉鏡花の『高野聖』などは、幻想文学に分類されています。お子さま向けではなく、大人向けのファンタジーという意味合いが含まれていましたが、ほんとうはファンタジーは幻想文学と呼ばれていたのです。


 これらの幻想文学には、政治批判、神秘主義、宗教の教義などを表現したものも大量に含まれていましたが、現在では、ライトノベルなどでは、幻想に出会ったときの驚きさやふしぎさは、あまり表現されていないようです。


 わたしの知る限りでは、この『未知なものへの驚き』を扱った作品は、80年代のマイナーな洋ドラ『スターマン』を最後に、ドラマにも見られなくなりました。



 むしろ、それら『未知なるものへの驚き』は、日常に舞台を移したかもしれません。その話はまた、のちほどします。



 第三に、中世ヨーロッパ風の世界を舞台に、魔法や奇跡があるドラクエ風の世界を描くというのがファンタジーだと考える人もいます。そういったドラクエ風のヨーロッパを、ナーロッパと呼ぶそうです。


 後述する『指輪物語』からRPG(D&Dダンジョンズ&ドラゴンズなど紙と鉛筆でプレイするTRPG)ができ、ここからウィザードリィとかウルティマのCRPG群になった。これをファミコンでできるようにしたのがドラクエという流れである、とされています。


 ドラクエ風の世界観を共通認識とした作品の多くは、冒険というプロットが盛り込まれています。魔法的なアイテムや生物、というのがあるだけで、空想の自由さは、あまりない。

 ナーロッパは、ファンタジーと言うより、SF的な別世界物語、ということが言えるかもしれません。2010年頃には、異世界に行ったら本気出す、スローライフも楽しみたいといった、夢を叶える場所としての別世界という一面も出てきました。逃避文学と言われても仕方ない。


 そんな、いろんな面のあるファンタジーですが、その歴史を振り返ってみると、大きな流れがあることがわかります。



 まず、ハイ・ファンタジーと呼ばれる分野の一つエピック・ファンタジーには、たとえば、『グイン・サーガ』(栗本薫)は、異なる世界での歴史的な出来事を追っていくファンタジー。最初はSFの要素があったこの作品、巻を追うにつれてどんどん魔法的になっていきました。ここでのサーガとは、一家一門の歴史を系図のように描いた叙事小説。 また、壮大な歴史物語や冒険物語、ファンタジーなど。エピック・ファンタジーとはこういった異世界での歴史的な出来事を中心とした作品群のことで、そこではその世界での時代の転換となる事件を扱っています。多くの場合、それは戦いを伴います。


 このジャンルでは詳細な世界の構造や、さまざまな土地の様子、その世界での諸勢力のバランスなどがリアルです。実際、たとえば、SFですが『銀河英雄伝説』では、銀河同盟に対立する銀河帝国、その間で漁夫の利をせしめようとするフェザーン、そして地球教といった勢力が複雑に絡み合い、その力のバランスや歴史などが、効果的に語られていました。



 最近のエピック・ファンタジーで有名になったのは、『精霊の守り人』や『獣の奏者』の著者、上橋菜穂子。人類文学者らしい視点で語られる叙事詩に魅せられた人は、多いはずです。



 こういった作品群が、言語学者トールキンの『指輪物語』の影響下にあることは、論を待たないでしょう。『指輪物語』はこの分野の最高峰で、小説のあとにつけられた詳細な世界の歴史や各種族の文化に関する解説は、トールキンの十数年の労作です。英語版にはエルフ語のアルファベットがついていたといいます。エルフ語の録音まであったとか……凝る人だね。

 

  

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