第8話壁と尻⑧
「多分ね。アンタ、どえらい勘違いしてその百百川さんの乙女心を傷つけるところだったわよ。どこの世界にそんなくだらない理由でブロック塀の穴にハマる女子高生がいるもんかよ。よくよく反省なさい」
「だはは……申し訳ない」
頭を掻きながら、俺はすぐに別の事を考えた。
「でも、百百川さんはなんでそんな事したんだろう。百百川さん、あの廃工場に用でもあったのかな――?」
その時だった。
ブーン、ブーン……というバイブレーションの音とともに、百百川さんのバッグからけたたましい音で音楽が流れ出した。
はっと姉を見ると、許す、というように姉は頷いた。
ファスナーを明けると、そこには《家》という表示とともに着信を告げるスマートフォンが入っていた。
だけどそれ以上に――そのバッグに入っていたものを見て、俺は全てを納得した。
なるほど、それでか――。
俺と姉は頷き合い、それから電話に出た。
『あのっ、もしもし!?』
電話の向こうから、随分慌てている百百川さんの声が聞こえてきた。
『あのっ、実はその、携帯……というかバッグを置いてきてしまって……! あの、そのバッグ、あっ、あとそれから携帯も私ので、あの、多分手帳とかに百百川瓜姫って名前が入ってると思うんですけど……!』
「大丈夫大丈夫。落ち着いて百百川さん」
俺が落ち着かせるように言うと、百百川さんが絶句した。
「俺だよ、藤村三蔵。百百川さん、廃工場のところにバッグも携帯忘れてっただろ?俺が預かってたから大丈夫だよ」
『ふっ、藤村君……!?』
百百川さんが素っ頓狂な声を上げた。
「百百川さん、確かこの町内だったよね?」
『うっ、うん……そうだけど』
「丁度よかった。百百川さん、またさっきの工場まで来れる?」
『うぇ――?』
百百川さんは驚いたようだった。
『い、いくらなんでも悪いよ! 助けてもらった上にそんなことまでしてもらうなんて! わっ、私が今から藤村君の家に行くから――!』
「いいのいいの。あの工場に用もあるしね。それじゃ、一時間ぐらいしたら工場に来てね」
俺はそれだけ言って、さっさと電話を切ってしまった。
姉を見ると、姉はちょっと呆れたように見た。
「アンタね……せっかく関わり合いになった女の子との電話なんだからもっと楽しませようとか努力しなさいよ」
「いいじゃん別に。姉ちゃんだって同じような感じだろ? ――それよりも姉ちゃん」
俺が縋るような目と声で言うと、フン、と姉は無表情で鼻を鳴らした。
「仕方ないわね……アンタが全部面倒見なさいよ。私はそういう人間じゃないんだから。このものぐさな人間にトイレの始末とかさせないでよね」
姉はそれだけ事務的に言うと、またふしだらな格好でPCに向き直ってしまった。
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