第7話壁と尻⑦

俺は露骨に顔をしかめた。


「姉ちゃん、いくら自分が痴女スタイルだからってそういう質問は感心しないぜ。いくら俺だって同級生のプライバシーぐらいは……」

「なに勘違いしてんだタコ。いいから答えろ。いいか、くれぐれもごまかすなよ――パンツは見えてたか?」

「ああ答えてやるさ。スカートがまるっとめくれて丸出しだったとも」

「どの程度?」

「アメリカに大統領の顔が彫られた岩山があるだろ?」

「ラシュモア山?」

「あれの中のジョージ・ワシントンの顔ぐらいだ」

「ほとんど丸出しか……」


そして意外なことに黒い下着だったとも、と言うと、姉はそこから何を納得したのか、何度か頷いた。


「さらに質問。アンタはそのブロック塀の崩れたところに、トラックか何か停まってなかった?」


俺は少し驚いて答えた。


「おお、よくわかるねぇ。俺が来たときはもういなかったけど、百百川さんがトラックが停まってないならそこから入れるって……」

「そのブロック塀の穴の位置は? アンタの胸の高さぐらい?」

「たぶんそれよりちょい下ぐらいだな」

「その百百川さんの身長」

「百五十センチぐらいかな」


そう、百百川さんは色々とデカいけど、身長はその限りではない。

クラスでもどちらかと言えば小柄な部類に入る人だし、その低い身長のせいでますます過激なセッティングの身体が目立つ人なのだ。


姉はしばらく何かを考えて――それから何度か頷いた。


「サンゾー」

「何?」

「私は弟として、アンタを小さい頃から色々と鍛えてきたつもりだと思う」

「へ?」

「けれど――根本的に再教育の必要がありそうね」


姉は呆れたような表情で俺を見た。


「どういうこと?」

「はぁ、ニブいわね……私の書いてる小説ならアンタもう殺されてるわよ。逆さ吊りにされた上で首から生き血をすっかり抜かれてね」

「俺、人助けしたのにそんなひどい殺され方するの?」

「はぁ。これが我が弟か、全く……」


レンズの奥の姉の目が俺を叱るように鋭くなった。




「ヒントはやるからよく考えなさい。あのね、その壁の穴はアンタの腰より下の高さぐらい、つまりその百百川さんの胸の高さぐらいにあった。見つけたときには両足が浮いてたんでしょ? 踏み台もなくそんなところによじ登って、尻がハマるまで身体を突っ込めるわけないじゃない」




それは――確かにそうかもしれない。

俺が素直に「まぁ、それは……」と肯定すると、姉は続けた。




「それにねサンゾー、百百川さんはスカートがまるっとめくれてパンツが丸見えだったんでしょう? これが第一、有り得ない。物理的に絶対にありえない」

「は――?」




俺はその言葉に、しばらく考えた。

そう、あの時確かに、百百川さんのパンツは丸見えだった。

否、スカートがまるっとめくれていた、と言ったほうが事実に近い。


いや――違う。

確かに、頭から穴に突っ込んだのなら、スカートはそうはならない。


百百川さんがあんなところにハマっていた理由。

「トラックはまだいる?」という言葉の意味。

壁の前に置かれた錆びた一斗缶。




違う――逆だ。根本的に逆なのだ。

俺が目を見開くと、姉は満足そうに頷いた。




「あ、なるほど――そういうことか」

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