ピクルスの武器商魂、そして涙
うまく商談を纏め上げた武器商魂の強いピクルスは、次にマシュマアロウにかけ合って国際電話の使用許可を得た。
「こちらピクルス。ジッゲンか」
『はい、私です。ピクルスお嬢様は今どちらに?』
電話の先はキュウカンバ伯爵家の第一執事ジッゲンバーグだ。
「デモングラ国軍の第五駐屯地ですわ♪」
『左様で、てぇええっ!? 今、なんと??』
「ジッゲン、耳が遠くなりましたか。わたくしはデモングラ国にきています」
『チョリソールも一緒なのでしょうか?』
「わたくし一人ですわ。おほほほ」
さも誇らしげに話すピクルス。
『は、はあ左様で……ですがピクルスお嬢様、そのような場所に行かれて、一体なにをされておられるのでしょう』
「ビジネスですわ。四百連射銃を五千挺用意して、デモングラ国へ送付なさい」
『はあ……はいはい、承知致しました』
これで通話を終えたピクルスは、続いて遠距離トランシーバーを借りる。
「こちらピクルス。チョリソール大尉か」
『シュアー!!』
「きなさい。そこから西に五キロ飛べば、デモングラ国軍の駐屯地ですわ♪」
『ラジャー!!』
約三十秒でピックルが到着した。
拘束されていた第二王子のオムレッタルが、機体から降りて走ってくる。
「オムレッタル兄さん、大丈夫でしたか!」
「おおサラミーレ、お前こそ無事だったか?」
「はい!」
ピクルスを始め大勢の人間が見ている前で、二人の王子は強く抱き合い、互いの頬にキスをした。
「チョリソール大尉、直ちに帰還する」
「ラジャー!!」
ピクルスとチョリソールが立ち去ろうとした時、漸くオムレッタルがサラミーレと抱き合うのをやめて、二人の傍へ走り寄った。
オムレッタルは少し照れ臭そうな表情をして、ピクルスの背中に声をかける。
「この度は、どうお礼を述べれば良いのやら……」
ピクルスは立ち止まったのだが、オムレッタルたちに背を向けたままだ。
「なんのことかしら。それよりもチョリソール、捕虜たちに逃げられてしまいましたわねえ。これを報告すると、きつく叱られますわよ。覚悟しておきなさい」
「シュアー!」
ピクルスは一度も振り返ることなく、そのままヘリコプターに乗り込んだ。
後に続いて、チョリソールも操縦席に乗る。
それから少ししてピックルは舞い上がり、瞬く間に東の空へと消え去る。
Ω Ω Ω
キュウカンバ伯爵家に帰ったピクルスは、まず風呂に入って汗を流した。
少しすると、ピスタッチオが武器工場から昼食のために戻ってきた。ピクルスが出迎えて、意気揚々と話す。
「お父様、武器が沢山売れましたわ♪」
「馬鹿者!!」
ピスタッチオは武器商人であると同時に、自分で刀を打つこともある職人気質の頑固な男だ。
「お、お父様!?」
「ジッゲンバーグから聞いたぞ。お前、デモングラ国軍に乗り込んだのだな。しかもたった一人で!」
「そうですわ」
「わしらがどれだけ心配していたと思うのだ!!」
ピスタッチオの両の目に涙が浮いている。
「お父様……」
この時になってピクルスは漸く気づいた。
勘違いをしていたのだ。武器が大量に売れたことを話せば、ピスタッチオはきっと大喜びしてくれるはずと思っていた。
だが大きく違っていた。自分の軽はずみな行動が、これほどまでに父親を心配させてしまっていたことを知り、ピクルスの胸はキュルリキュルリと痛み出し、左右の頬に熱い滴が流れた。
「ああ、もう良い。分かって、くれればなあ……」
「ごめんなさい。わ、わたくしは、とても悪い娘でした。ぐすん」
「あ……さあピクルス、昼食にしよう」
「ぐすっ、はいお父様」
「ところでピクルス。今日は、アカデミーは休みの日だったか?」
「シュア」
二人で食事をしながら、ピクルスは「これからは、たった一人のお父親を悲しませたりしないように、良く気をつけますわ」と深く反省した。
父娘水いらずの昼食を済ませた後、ピクルスはチョリソールを伴って自衛軍総司令本部へやってきた。その二人の他、今この中央指令室にはフラッペとディラビスがいる。
「捕虜たち三名は、ピックルから飛び出して、パラシュートでデモングラ国領土へ降り立ったというのか?」
「シュアー♪」
「キュウカンバ大佐とグラハム大尉が、そのようなヘマを仕出かすとは……実に珍しいことが、ある日もあるのだなあ」
フラッペが含み笑いを浮かべた。
「チョリソールには、落度がありませんわ。どうぞ、わたくしにだけ処分を」
「ピクルス大佐!」
チョリソールはピクルスの命令に従っただけなのであるから、彼に落度がないのは事実である。だが、それでもチョリソールは、今のピクルスの言葉に心を打たれた。そして、これからもずっとピクルスについて行こうと固く決心している。
一方フラッペはピクルスの表情を眺めていたのだが、少し間を置いてからおもむろに口を開いた。
「キュウカンバ大佐による今朝の領空侵犯機迎撃の功績は、捕虜たちを逃がしたことに対する処罰によって相殺する。それで良いな?」
「シュアー!」
この処遇によって、チョリソールは漸く安心できたのである。
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