デモングラ国へ乗り込むピクルスの目的
ピクルスが説明しながら自分でパラシュート袋を背負い、足に装着している燃料切れの近いジェットフットを外して新品を履く。
「このジェットフットを履いて地面を強く蹴ると、高くジャンプできますわ」
やり方を見て、サラミーレとパボチャップルも同じようにする。
「最後にこれを、こうして腰につけておきなさい」
ピクルスは腰に粘着テープで携帯型ターボエンジン二個を貼りつけ、目の前の二人に二個ずつを手渡した。
「左右の手で一本ずつ持って同時にスイッチを入れると、八百馬力の推進力を得られますわよ」
サラミーレもパボチャップルも、納得のいかないような表情をしながら、ピクルスから受け取った筒状の器具を腰に貼りつける。
「チョリソール大尉、ハッチを開けなさい!」
「ラジャー!!」
チョリソールが操作パネル上にある開閉スイッチを押したことで、後部座席の後ろにあるハッチが上方向に開いた。それと同時にピクルスがレバーを引いて後部座席を倒す。
ひっくり返った座席は、即席の踏み台になった。
「これで準備ができましたわね♪」
「ここから飛び降りるつもり?」
「シュアー♪」
不安な様子を見せるサラミーレに対して、ピクルスは泰然自若だ。
パボチャップルも、ヘリコプターからの落下は軍事訓練で慣れているため、平然としている。
「チョリソール大尉、トランシーバーで連絡するまで待機なさい」
「ラジャー!!!」
ピクルス専用デパッチ・ピックルは、既にハーキュリーズ山岳の北側の麓にまで達している。すぐ近くがデモングラ国だ。
ピクルスは、中部座席の下に隠してあった機関銃を取り出して、肩にかけた。
「軍人のあなたが最初ですわ。さあ、一番近くにある基地へ向いて飛びなさい」
パボチャップルは、ためらうこともなく無言で踏み台を蹴って飛び立つ。
「次はわたくし。そして最後に弱虫王子」
「僕は弱虫ではないぞ」
「そうかしら? チョリソール大尉、この王子様がすぐに飛ばないなら、ピストルで撃ち落としなさい」
「ラジャー!」
この直後、ピクルスは踏み台から飛んで大空へ向かった。
「ファイブ……」
チョリソールがサラミーレに向けてまっすぐにピストルを構え、カウントダウンを始めた。
「フォー……スリー」
足を震わせている弟の姿を見て、オムレッタルも思わず檄を飛ばす。
「サラミーレ、お前も男だろ!」
「わ、分かったよ、ええい」
撃たれるよりましと考えて、サラミーレも飛んだ。
Ω Ω Ω
ピクルスたち三人がデモングラ国軍の第五駐屯地に降り立った。
「わたくし、ヴェッポン国自衛軍に所属しています、キュウカンバ伯爵家のピクルス大佐ですわよ! さあ今すぐ貴国の王に会わせなさい」
「無理だ」
第五駐屯地の責任者マシュマアロウは、ピクルスの出した要求を拒否した。
招きもしていない他国の一軍人を国王に謁見させることなど、できるはずもないのだ。
「テレビ電話でも構いませんわよ♪」
「うーん、まあそれなら可能かもしれない」
マシュマアロウは王室に電話をかけて事情を説明した。
第二王子のオムレッタルが未だ捕虜として囚われの身である以上、ピクルスの要求を無視ばかりしてはいられない。それで止むを得ず王室側は折れた。
「さあついてこい。国王陛下が、テレビ電話による謁見をお許し下さった。ただし三分間だがな」
「それで十分ですわ」
ピクルスは、マシュマアロウに連れられて、テレビ電話システムのある第一会議室に入った。
テレビ電話とはいえ、国王の目前で戯けた真似をしないか監視するために、二十人もの兵たちがライフルを構えてピクルスに狙いを定めている。
少しして、壁に設置されている大型モニターにデモングラ国王の顔が映った。
『話は聞いた。オムレッタルは無事なのか?』
国王の声は、天井に備えつけられているスピーカーから流れてくる。
「第二王子は丁重に扱っていましてよ」
『ほう、そうなのか。それで、なにを要求するのだ?』
「デモングラ国王、リーズナブルな価格そして高品質と名高い、キュウカンバ伯爵家の武器いかが?」
『武器だと……して、どのような?』
「お勧めは、この四百連射銃ですわ♪」
ピクルスは、肩にかけていた機関銃を持ち上げてカメラに向けた。
その直後だ。
――ピュピュピューン! ヴヴヴゥン$$
ピクルスを取り囲んでいた兵たちの手中にあったライフルが、一瞬にして一挺残らず全て弾き飛ばされてしまった。
この派手な演出の一部始終を、もちろんデモングラ国王もリアルタイムでしっかり眺めていた。
『……か、買おう。五千挺、用意するが良い』
「契約成立ですわね、おっほほほほ♪」
高らかと四百連射銃を掲げて高笑いするピクルス――その晴れやかな姿に、周囲の二十人からなる兵たち、マシュマアロウ、そしてサラミーレとパボチャップル、さらにはテレビ電話システムを介して視聴しているデモングラ国王室の面々も、皆が皆揃って唖然となりながら見入っていたのだ。
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