捕虜生活を選ぶか自由を取り戻すか
午前九時を少し過ぎた頃、三機のデパッチが同時にヴェッポン国自衛軍総司令本部の第一飛行場に着陸した。
そのうち二機はブルマアニュ高原から捕虜たちを連れ帰った量産型で、もう一機は一度キュウカンバ家に戻った後、折り返して飛んできたピックルである。
「おはようございます、ディラビス少佐」
先に降りたチョリソールが敬礼をしながら挨拶した。
すぐさまディラビスも返す。
「ああ、おはよう。今客人を連れてきたところだ。捕虜という名の客人三名を」
「では、ボムキャベッツの?」
「そうだ。そのピックルに迎撃されたそうだな。キミが撃ったのか?」
「い、いいえ。ピクルス大佐が撃ちました!」
チョリソールは、自分の撃ったミサイルが外れたことについては黙っておくことにした。
「ほう、やはりな。一撃だろう?」
「シュアー!!」
「ははは、さすがはキュウカンバ大佐だ」
この時、噂の本人が駆けつけてきた。
「ディラビス少佐、ご機嫌よう♪ チョリソール大尉もご苦労」
少し遅れてフラッペもやってきた。
チョリソールはやや緊張気味に敬礼する。
「おはようございます、マルフィーユ少将!!」
「やあおはよう、グラハム大尉」
続いて、チョリソールの後ろにいたディラビスがフラッペの前へ歩み出る。
「マルフィーユ少将、捕虜三名はどうしましょうか?」
「うむ。ご苦労だったな、ディラビス。捕虜たちについては、ここから収容所までの移送をキュウカンバ大佐に任せることにした」
「ラジャー!」
捕虜という名の客人三名は、乗っていたデパッチから降ろされて、ピックルの後部座席へ移動させられることとなった。
「マルフィーユ公爵、なにかの間違いなのでは!!」
フラッペの姿に気づいたサラミーレが叫んだ。
続いてオムレッタルも口を開く。
「こんなことをして、どうなると思うのだ!」
「二人とも、馬鹿なことをしましたな……」
フラッペは冷たく応えた。デモングラ国の第二王子も第三王子も、今ではただの捕虜に過ぎないのだ。
やり取りを見ていたピクルスが話しかける。
「フラッペ少将♪」
「どうした?」
「この捕虜たちは、もう故郷の地を見ることができませんわ。せめて最後に少しだけでも見せて差し上げるのは、どうかしら?」
「ああ、そうしてやってくれるか」
「シュアー♪♪」
こうして、三人の捕虜を乗せたピックルは、ヴェッポン国自衛軍総司令本部の上空約五百メートルの高さまで舞い上がった。
操縦席にはチョリソール、中央の豪華席にはピクルスが座っている。
「オムレッタル兄さん、この座席、なにか臭わない?」
「そうだな、しかも動物の毛のようなのが沢山付着しているではないか!」
サラミーレとオムレッタルが愚痴をこぼし始めた。その一方で、三人目の捕虜パボチャップルは終始無言である。
「おほほほ。ザラメ軍曹の体臭と体毛ですわ。それよりも、今から三分間で説明しますから、よおくお聞きなさい」
ピクルスが、後部座席に張りつけられている三人に向かって話し始めた。
「あなた方のうちお二人には、これを足につけてパラシュートを背負わせますわ」
そこまで話したピクルスは、ジェットフットとパラシュート袋を二組ずつ後部座席へ向けて投げた。
「うわっ、痛っ!」
「おいこら、危ないではないか!!」
折り畳まれて収納されている状態の硬いパラシュート袋が、サラミーレの足にぶつかったのだ。
それでもピクルスは平然とした顔で一喝する。
「お黙りぃ!!」
そして後部座席へ行き、シートベルトを解除してから、オムレッタルだけを操縦席の隣に移動させて座らせた。
横にいるチョリソールがピストルを構えている。
「逆らおうとすると全員射殺ですわよ♪ よろしくて?」
ピクルスは微笑みながらそういい残し、後部座席へ戻ってサラミーレとパボチャップルの腕縄をナイフで切り落とした。
「どうするつもりなの?」
サラミーレが不安そうに尋ねた。
「お二人には、デモングラとの国境線のところで、飛んで貰いますわ♪」
「む、無茶だよぉ、そんなの」
震えるような声でサラミーレは抗議した。
だがピクルスは容赦なく続ける。
「捕虜生活を選ぶか自由を取り戻すか、どちらがよろしいのかしら?」
「分かった。いう通りにしよう。でも兄を、どうするつもりなの?」
漸く覚悟を決めたサラミーレではあるが、それでもまだオムレッタルのことが心配で仕方なかった。
「あちらのお方は、切り札ですわ。おほほほ」
「切り札?」
「ええ。わたくしも、あなた方と一緒に飛びますけれど、その代わりにあちらのお方にお残り頂くのですわ。ですから、早くそのジェットフットとパラシュートを装着しなさい」
ピクルスは後部座席の下を指差した。そこには先ほど投げつけられたジェットフットとパラシュート袋が転がっている。
「???」
サラミーレは、ピクルスの意図が全く理解できないでいる。
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