第8話

 ガンライフ・オンラインには、ほとんどのFPSやTPSにあるような、一概に危険エリアと呼ばれるシステムが存在しないらしい。

 ならどうやって決着をつけさせるのか。場合によっては、延々と続くかもしれないのに。


 私は、フィールドの端にある高い壁に背をつけて周囲を警戒しながら、そんなことを考えていた。

 まあ、ヘルプを見たからもう解決したんだけど。


 ある程度の時間が過ぎれば、マップにプレイヤーの位置情報が出現。

 ずっと動かず、かつキルもしなければ、ペナルティーとしてポイントが減少。

 など。


 動かずジッと敵を待つようなスタイルの私にとって、動かざるを得なくなる危険エリアが無いのはありがたい。

 逆に、位置を知られないためにジッとしているはずが、いつの間にか敵に知られていたり。

 敵が来ずにキルできなければ、ペナルティーを受ける。


 それは私にとっては苦だった。

 このゲームじゃ、自衛隊寄りのこのスタイルでは、完全に不利になる。

 そもそも、自衛隊はスパイや殺し屋じゃないんだから、一人で行動すること自体、本来のスタイルから一脱しているのだけど。

 

 だけど、私自身がそのシステムをものにできれば、それは大きな力となる。

 自衛隊学校で身に着けた、実践に長けた能力。

 ゲーム特有の、不利にもなれば、有利にもなれる平等なシステム。

 これを思う通りに使えた時には、私はもっと強くれる。そう確信した。






 現在はゲーム開始から13分が経った。

 その3分前、ちょうど10分が経った瞬間、マップに赤い点が現れた。プレイヤーの位置情報だ。


 その時の私の待機位置は森の中。

 ハンドガンしか持っていない私にとっては、なんとも言えない場所だ。

 けれど私は、その場からあえて動いていない。

 だって、私は戦闘がしたいんだもん。この判断は当然。


 それに、下手に動くよりも、ある程度慣らした場所での待ち伏せの方が、勝率は格段に上がる。

 そして15分が経過した頃、それは聞こえた。


 2時の方向からザッザッと雑草を踏みつける音。私から見て西に向かっているっぽい。

 そして私は、相変わらず地に這いつくばって、伸びた雑草に身を隠している。

 状況的に見て、私が有利かな。

 だけど、これは何らかの罠にしか思えない。


 不用心に歩く女は、音で自分の位置を知らせているようなもの。

 しかし銃は構えず、何やらブツブツと愚痴を言っている。


 ――油断させて仕留める気だ……!

 

 ただ、辺りに地雷などを埋めることは不可能。何せ、私はずっとこの場所から動いていないのだから、埋めていたらとっくに気づいている。

 だとすれば、なんだ?


 自信の反射神経を持っているとか。

 他のプレイヤーとチーミングをしているとか。

 もしくは、他の何かか。


 わからない。ただ、普通に考えればこの状況、私に分がある。

 そして今を逃せば、その分は徐々に減る。

 

 覚悟を決めよう。失敗したらその時だ。死ぬわけじゃない。

 決意をし、いざ引き金に指を掛ける。

 距離は5メートル程。こちらを窺っている様子は無い。

 女は右足を前に出し、一歩を踏む。


 ――今っ!


 引き金に手を掛けた。

 耳に響く銃声。肉に被弾した時の、鈍い効果音が混じる。女の右足に命中した。

 続いて、短い悲鳴と、転んだような音。


 私は気を緩めず、倒れた相手に再び発砲する。

 体に手榴弾などを隠し持っている可能性も踏まえて、頭を狙って撃った。

 確実に仕留める一撃。

 

 女の体は赤色の粒子となって消え、私は呆気なく勝利した。

 本当に呆気なかった。

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