第3話

 時間が経ち転送されたフィールドは、如何にも銃が似合いそうな、荒れ果てた荒野だった。

 ところどころに半壊したトラックや貨物列車。屋根がもろもろ無くなっている家なんかもある。


 私は第一に、放り出された貨物列車のコンテナを盾に、背後からは撃たれない状況を作り出す。

 次に、ここは荒れた大地。後ろからの攻撃は防げても、前からの攻撃には無防備だ。

 なので、軍隊の頃に教えられたものの一つとして、私はとりあえず屈む。これで少しでも的は小さくなり銃弾が当たりづらくなった。


 だとしても今は危険な状態。敵に見つかる前に移動したい。ただ、この場からすぐに隠れられる場所など、背後にあるコンテナの中しかないわけで。

 コンテナは入り口が一つしかない。私がそこに入ったとして、手榴弾やミサイルを中にぶち込まれでもしたらその時点でゲームオーバー。

 それならばと、まだなんとかなる可能性があるこの状況を選んだ。


 前を見る。

 

 当然、荒れ果てた大地の延長戦だけど、運が良かった。

 目の前には、クロックポジションで1時の方向に家、その奥に協会。10時の方向、視界で細部が目視できない場所に、大きめの建物がある。そのくらいしか、無かった。

 この状況を早めに作り出せたのは、本当に運が強い。

 まず、このフィールドで私がこれ以上移動するのは、敵に見つかりやすくこの上無く危険。ということは、その逆もある。相手にとっても危険なんだ。

 しかも、私はフィールド上を移動する必要はない。何故なら、コンテナという盾があるから。

 これが何を意味するのか。


 私が敵にバレたところで、敵の位置は確認できる。

 まさかいきなり家の中に転送されていない限りは、この辺りに潜む輩は一瞬で視界に捉えれる。まさに神ポジだ。

 そう、唯一心配なのは、あの家にプレイヤーが潜んでいるかどうか、だった。

 ただ、それもスナイパーが、の話だけどね。

 

 私みたいなハンドガンなど、銃の中でも近接戦闘を得意とする銃同士の戦いでは、基本的に攻め側が不利だ。何せ、前進しながら銃を撃つんだから、ブレが酷くなる。

 反対に、迎え撃つ方は――


 ――バンッ!


 1時の方向から銃声!

 そして相手は……


「ごめんな姉ちゃん、早々で悪いが死んでもらうぜっ!」


 ボロボロの家から現れた巨体の男は、そんなありきたりなセリフを吐きながら真っ直ぐこちらに走って来る。


 今にもニヤケが出そうだった。

 ――一つしか無かった懸念が、早々に潰されたことに


 男は走って来る。距離は約数十メートル。その手に持つのは、おそらく私の銃よりもランク的には上であろう自動小銃。

 さっきの銃声はおそらく牽制。あの距離であの武器じゃ普通は当たらないから。

 それにコソコソしても意味が無いって、相手もわかっている。


 だけどその意味は無かった。逆に不利だよ。その銃が、三点バースト(一回引き金を引くと三発の弾が連続で発射する)などのタイプではないことを知れたのだから。

 

 遠目だと相手の銃は見えづらいけど、音はかなり遠くにいても聞こえてしまう。

 その音から、色々情報を読み取るんだ。銃の種類や特性、相手の位置、射程などなど。


 男は走って来る。距離は50、40メートルを切ったか。

 その間、連続した銃声が響く。

 私も銃を構える。

 距離は40、30と縮んでいく。そろそろお互いの銃弾が体に当たる距離だろうが、私は未だ発砲しない。するのは男の銃だけ。しかしそれも全て外している。


 さっき私が銃を向けた瞬間、男は賢くもジグザグに走り方を変えた。

 それが一つの原因ともなって、私には当たらない。

 ただそれだけで全てを外すこともあるはずがなく、当然そうなるように仕向けている。


 銃口だ。


 この男は変に頭がキレるようだから、発砲しない銃口をあえて、男のジグザグのその先に向けているんだ。そんなことをされた相手は当然、ジグザグのように単調な避け方ではなく、傍から見れば理解不能とも言えるような動きをしだす。

 そのおかげで、数十メートルと離れた距離では、男の重厚は発射直前にブレ、放たれた銃弾は私には当たらない。


 反対に私は、不規則に屈んだり位置を少し変えるだけで、発砲もしない。

 流石に、あんな不規則な動きを正確に捉えられるほど、私も超人じゃないんでね。


 だけど30メートル、20メートルと近付けば、男の連射は私の真横を過ぎてくる。

 流石に危なくなって、コンテナに沿って大きく避ける。

 瞬間、男が「チッ」っと舌打ちするのが聞こえた。もう近かった。


 距離は10メートル。私は背のコンテナを蹴り、前に走った。できるだけ低く、今にも倒れそうなくらい。


「クソォッ!」


 焦りからか相手の照準はブレ、イラつきで先読みもできていない。

 私は何の小細工もせず、ただ真っ直ぐ、そして低く、一直線に、男を捉えて走る。

 

「当たれぇ! 当たりやがれッ!」


 銃弾は私の頭上を、音もたてずに通り過ぎ、直後背後でコンテナに当たり金属音を鳴らす。


「クソがァッ!」


 ――3メートル、2メートル、1メートル


 私は銃を持った両手を伸ばしきり、その銃口は男の顎に当たる直前、火花を散らした。

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